10種類のマシンが出場する 500のビンテージイヤー
(ライディングスポーツ 96年4月号)

                       
 FIM世界選手権ロードレースの96年版暫定エン
トリーリストが発表された。このリストは、GPの
年間プレスパス所持者にFAXされると同時に、イ
ンターネット上のDORNA/TWPのホームペー
ジに登録されている。             
 今年の特徴は、何といっても500クラスを走る
マシンの種類が増えたこと。NSR500(4気筒)
とNSR500V(2気筒)、YZR500、RG
V−Γ、アプリリア、ROC ヤマハ、ハリスヤマハ、
パトン、エルフ、そしてプライベーターの手に渡っ
た91YZR500の10種類だ。         
 ここ数年では最も多くの種類のマシンが走り、し
かもそのうち2種類がまったくのニューモデル。さ
らに、ヤマハが、ライダーを倍増しただけでなく開
発体制を強化したこともあって、例年以上にメカニ
ズムへの興味は高まる。            
 ニューモデルのうち、NSR500Vについては
本誌でも何度か採り上げており、1月29日には岡田
が、マレーシアでのIRTAテストで、参加者中最
速の1分25秒2(去年の予選3番手に相当)という
タイムをマークするなど、マシンの基本レイアウト
とおおよその戦闘力が判明している。      
 これに対して、NSR500Vと同じく97シーズ
ンからの市販を目指し、今年のGPにデビューする
エルフ500については不明な点が多い。ライダー
の陣容は、95シーズンのランキング12位のボルハ、
同17位のボシャールに、後日発表予定の1人を加え
た3人だと発表されたし、マシンの基本レイアウト
もわかっているが、チームの体制やマシンの戦闘力
に関する情報はない。             
 本誌の『イチ押しクン』の取材をして以来仲のい
いボルハ(オランダGPのときは、高速道路のパー
キングで連れションもしたっけ)がライダーで、去
年の世界選手権サイドカーレースで4連勝したビラ
ント組(サイドカーの世界の帝王)が使っていたの
と基本的には同じエンジンを使い、エルフ(GPを
走るマシンの大半が使うガソリンを供給するフラン
スの国営石油会社)をスポンサーに、かの有名なセ
ルジュ・ロセ(ROCの代表者)がまとめ上げたマ
シンだから、個人的にはNSR500V以上に興味
を持っている。                
 いや、それより、ヨーロッパかぶれのオイラとし
ては(鉄兵さんゴメン)エンジンや車体、ライダー
やスタッフだけでなく、1台のGPマシンを造るプ
ロジェクトそのものが、すべてヨーロッパで進めら
れたという事実のほうが大切なのだ。      
 なるほど、アプリリアも全欧州製といえるかもし
れない。が、イタリアのオートバイメーカー(スズ
キのエンジンを積んだ市販車も製造している)のマ
シンよりも、スイスの会社(ヴェンコAG=スイス
アウト)で働くオーストリア人のエンジニア(ウル
ス・ヴェンガー)が造ったエンジンと、フランス人
のロセが造った車体を組み合わせたマシンのほうに
よりヨーロッパらしさを感じてしまうのだ。   
 そして、忘れてはならないのは、このプロジェク
トの推進役、ミシェル・メトローの存在だ。スイス
でエルフ石油の輸入会社を経営する彼は、古くから
モータースポーツの後援者として知られており、エ
ルフの名を冠した数多くのGPマシンのプロジェク
トを援助してきたばかりか、現在はIRTAのエグ
ゼクティブでもあるという超強力なパワーを持った
人物なのである。               
 NSR500(4気筒)よりも軽いといわれる1軸
クランクシャフト・115度V型4気筒のエンジン
の改良(サイドカーに積まれた当初、クランクシャ
フトの折損事故が多発)や、レーシングマシンコン
ストラクター・ROCが長年にわたって蓄積したノ
ウハウを盛り込んだマシンの造りのほかに、『ニュ
ー・ヨーロピアンレーシングマシン』を標榜するプ
ロジェクトそのものの政治的な動きをも、今年は注
意して見守る必要がありそうだ。        
                       


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