U字谷越しにGrossgrocknerを望む |
北側をキッツビューエラー・アルペンに 南側をタウエルン・アルペンに挟まれたツェル・アム・ゼーの町は 登山やスキーの基地として知られている。 オーストリア最高峰のグロスグロックナーや その麓に広がるホーヘ・タウエルン国立公園への入り口だから 一年中、登山客や観光客が絶えることはない。 ザルツブルクからの列車は、ザルツァッハ川に沿って南下する。 しばらく南下すると、今度は川とともに大きく西に回り込み ツェル・アム・ゼーの一駅手前でザルツァッハ川と別れ そこから直角に北に向かい、湖のほとりに停車する。 オーストリア国鉄(OeBB)には美しい駅が多いが 中でもこの駅は最上位にランクされるべきだろう。 新しく、清潔感あふれる、山への入り口にふさわしい瀟洒な駅舎だ。 車窓右手に湖が見え、列車が速度を落とすちょうどその頃 反対側を見ると、木立の中から一本のナロー・ゲージが現われる。 これこそ、本線があきらめたザルツァッハ川沿いの道をたどり キッツビューエラーとタウエルンの 両アルプスに挟まれたピンツガウ平地を その最奥部まで進んで行く鉄路なのである。 |
道端にあったautoschleuseの標識 |
インスブルックからタウエルンへの道 ピンツガウアー・バーンの存在を知ったのは、ほんの偶然からだ。 いつだったか、仕事でウィーンのほぼ真北にある チェコのブルノへ行ったときだった。 少し早めにフランクフルトに着いたので スイスからイタリア、オーストリアと 駆け足で山岳ドライブを楽しむことにしたのだ。 前日、バーゼルからスイスに入り、インスブルックに出てから ドイツとイタリアを結ぶブレンナー・アウトバーンを北上し ドイツとの国境近くのモーテルに泊まったボクは この日、ホーヘ・タウエルンを越えてオーストリアの南端に出 そこからぐるっと東に回ってウィーンに行くことにした。 なぜ、こんなに遠回りをする気になったかというと ミシュランの道路地図(1/1,000,000 道路地図)を見ていて 4本あるホーヘ・タウエルン越えルートのうち1本に 『クルマが無蓋貨車に乗ったマーク』がついているのを見つけたからだ。 スイスにはそのマーク、つまり、アウトシュロイゼ(=自動車搬送列車)が いくつかあるのを知っていたが、オーストリアにあるのは知らなかった。 |
静かな山間のBoeckstein駅 |
どこからともなく湯気の香りが漂ってくる 山の斜面にへばりついたようなバッド・ガスタインの街を抜け 狭いつづらおれの坂道を登ると急に視界が開けた。 山あいにできた小さな平地だった。 緑のじゅうたんが黄色のタンポポで縁どられている。 その縁どりに沿って進んでいくと、駅に出た。 駅といっても、2本のホームと小さな小屋のような駅舎があるだけ。 どちらかというと信号所といった感じである。 駅舎の横からホームと平行に、細長い駐車場が延びている。 駅舎の前でクルマを降り、搬送列車の時刻を調べ 終点のマルニッツ(Mallnitz)までの切符を買ったボクは 駐車場の先のほうで列車を待つ車の列に並んだ。 駐車場の長さからして、夏には利用客が多いのだろう。 しかし、この日のベックシュタイン(Boeckstein)は 小鳥のさえずりと小川のせせらぎしか聞こえない 静かな山あいの駅だった。 静寂を破るのは、ときおり通過する列車の通過音と トンネルに入るときに鳴らす汽笛だけ。 ヒョーーッという独特の汽笛が次第に減衰しながら 何度も何度も周囲の山々にこだましていた。 |
Autoschleuseの、車内? |
並んでいた全部の車が乗り込んでしばらくすると 列車は何の前ぶれもなく動きだした。 ただ運転席に座っているだけで 何もしないのに車が動きだすのは妙な気分である。 駅を出るとすぐにトンネルに入った。 トンネル内にも照明はまったくないから、真っ暗闇だ。 けっこうスピードは出ていて トンネルの中だからよけいに速く感じる。 小径の車輪の割には振動は小さいが、騒音はけたたましく 左右にはけっこう激しく揺れる。 こういった、一歩間違えるととんでもなく危険な状況でも 無用なおせっかいを焼かないところがヨーロッパ的。 危機管理は、やはり個人に任せたほうが 人間は成長するんじゃないかと思う。 たとえそんなに難しいことを考えなくても いちいち世話を焼かれたのでは煩わしいし 旅の楽しさも半減する。 |