ブレーゲンツといえばサマーフェスティバル。毎年7月中旬から8月中旬までの1ヶ月間、ブレーゲンツは世界各地からの観光客で賑わう。彼らの目的地はゼービューン。1946年以来毎年、湖上に設けられた舞台で行われるオペラこそ、この小さな街を世界的に有名にしているイベントなのである。96年は『フィデリオ』97年は『ポギーとベス』が上演され、夏の宵、扇形のスタンドを観衆が埋めつくした。
だが、フェスティバルがなかったとしても、私にとってブレーゲンツは、世界で最も好きな街であり、地球上で最も居心地の良い地域の中心都市である。目立った観光スポットがあるからでも、有名な建造物があるからでもない。美しい湖と森、澄んだ空気、閑静な街並み、そして、そこに住む、アールベルクの東側とは異なったドイツ語を話し、汎ヨーロッパ的気概を持つ人々こそブレーゲンツの魅力なのだ。
Oberstadt
港を背にして、メインストリートであるカイザーシュトラッセの緩やかな坂道を登っていくと、わずか500メートルほどで丘に突き当たる。その上、つまり、段丘の上にあるのが、ブレーゲンツで最も早く開けた集落・オーバーシュタットだ。段丘の縁にある、玉葱みたいな屋根の塔を持つ建物がマルティンスカペーレ。同種のものの中ではヨーロッパ第2の高さを誇るこの塔は、ボーデン湖周辺地域では最も古い(約400年前に建造)バロック様式の建築でもある。 外壁に設けられた木組みの階段を登っていくと、塔の内部は民族&軍隊博物館となっており、街の発達と兵器、軍服、軍事書簡などの歴史に関する資料が多数展示されている。そして、最上層の四方に開いた窓からは、新旧ブレーゲンツの街並み、港、駅、ボーデン湖、ブレーゲンツの森など、美しい景色が見渡せる。

オーバーシュタットへの坂道。トンネルをくぐると段丘の上にある古い街並みに入る

カペーレとHotel Deuring-SchlossleRelais & Chateauxグループの高級ホテルだ

オーバーシュタットの民家。外敵の侵入を防ぐため、出入口は少ない
Zentrum
フォアアールベルク(Vorarlberg)州の州都・ブレーゲンツの人口は約2万5000人。市街地面積は小さく、中心街といえるのは、湖に沿った幅500メートル・長さ2キロメートル程度の大きさしかない。その中心街のほぼ中央にあるのが市役所で、港から市役所前を通ってロイトビューエル(Leutbuehel)に至るラットハウスシュトラッセと、ロイトビューエルからまっすぐ湖畔に至るカイザーシュトラッセ、そしてこれらに交わる数本の歩行者専用道路が繁華街を形成している。そして、繁華街の東側はヘルツ・イェスキルヘ(Herz Jesu Kirche)を中心に閑静な住宅街が広がり、西側一帯はブレーゲンツ駅を中心とするオフィス街となっている。

『ロイトビューエル』とは『市民の高台』というような意味。ブレーゲンツっ子や観光客で賑わうこの広場こそ、私にとってブレーゲンツの中心地。カフェの椅子に座り、行き交う人々を眺めながらお茶をするのが、ブレーゲンツ滞在の楽しみのひとつである。

市役所前広場にある噴水。伏流水の豊富な市街地には、他にも噴水が多い

Kornmarktstrasseの花屋さん。店内のディスプレイは一見の価値あり

ロイトビューエルからオーバーシュタットに向かうKirchstrasse
Seepromenade
ゼープロメナーデ、つまり湖畔の散歩道。突堤の先端からブレーゲンツ港駅の脇を通り、ブレーゲンツ駅の裏を湖岸沿いにゼービューンまで伸びる遊歩道とその周辺は、市民や観光客の憩いの場。突堤に並んだベンチに座って湖や港を眺めるもよし、緑に囲まれた湖畔の道を散策するもよし。のどが渇いたら、ボートハーバーの横にあるレストラン『Wirtshausam See』のテラスで1杯やったり、突堤の付け根あたりのスタンドで飲み物を買ったり……。
(左)ブレーゲンツ港からは、リンダウへの定期連絡船の他、ボーデン湖めぐりの遊覧船が出ている。港の正面に建つ立派な建物は郵便局
(右)ブレーゲンツ駅の裏手にあるゼービューン。後方に見えるのは陸上競技場で、このあたりの湖畔にはプールやテニスコート、スケートリンクなど、スポーツ施設が集まっている
ゼープロメナーデは、夜もまた美しい。遊歩道には明かりが灯り、はるか沖合いを見やると、ボーデン湖に突き出たドイツの有名観光地・リンダウの街明かりが湖面に浮かぶ。駅前広場がまだまだ人とクルマで賑わっている時間なのに、数本の線路とわずかな幅の緑地帯で隔てられた湖畔は、湖を渡ってくる冷気と静けさに包まれる。
Gebhardsberg
市街地の背後にある山の頂に、ゲバーツベルクはある。ここからは、街並みとボーデン湖、そしてボーデン湖に注ぐライン川、さらにはそのライン川の源流のスイス/イタリア国境の山々が見渡せる。

初夏には、駐車場からの坂道やカペーレの裏庭にタンポポが咲き乱れる
ここに来てテラスに座らないテはない。雰囲気も味もブレーゲンツ随一
ここは本来、礼拝堂(Kapelle Gebhardsberg)である。しかし、こんなに眺めの素晴らしい場所を礼拝堂だけにしておくテはない。というわけで、湖側の建物はレストランになっている。
以上、暫定公開中

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