03 ホッケンハイムからパリへ

6月13日・日曜日。
この日も明け方に雨が降った。
雨は、ときとしてレースをドラマチックに演出してくれるが
やはり、できれば晴天で、乾いた路面のほうがいい。
金曜・土曜の半袖・半ズボンに懲りたボクは
この日は長袖シャツの上にセーターを重ね
その上にカッパ代りのパーカを着込み
下は長ズボンという、一転して暖かい格好をしてサーキットに向かった。

どのクラスも見応えのあるレースだった。
観客の熱狂度では、ドイツは、スペイン、イタリア、オランダと並ぶ。
その中で、観客席に火薬を持ち込むのはスペインとドイツだ。
スペインは爆竹だが、ドイツはもっとスゴい。花火なのだ!
ドイツ人ライダーやトップ争いの集団が観客席にさしかかると
ドカン、ドカン、パリパリ…、と花火が炸裂する。
歓声と鳴り物の音もけたたましく
ライダーとともにコースを周回するから
観客席を背にしてカメラを構えていたって
トップグループの接近がわかる。


1周約6.8kmのホッケンハイムリンクは
そのほとんどが深い森の中にある
緑豊かな美しいサーキットだ。
森の中を駆け抜けてきたライダーたちは
ここから観客席に取り巻かれた
3つのタイトターンを経て
ホームストレッチに向かう


250では、日・独・伊の7人が最後までトップを争い、イタリア人が優勝。
次の500では、人気のアメリカ人、ケビン・シュワンツが破れ
オーストラリア人のダリル・ビーティーが初優勝。
ポールポジションからスタートした
日本の伊藤真一は今シーズン最高の3位。
そして、125では、ドイツ人のディルク・ラウディスが独走優勝。
2位から4位までに日本人ライダーが入った。


最終コーナーに入る
500ccクラス終盤のトップ争い。
先頭はオーストラリア人のビーティー。
2位にシュワンツ、3位に伊藤。
18周(約122km)のレースは
結局この順位でゴールし
ビーティーが初優勝。
伊藤には、初めて表彰台に立った
記念すべきGPとなった。


レースの後、日本人の取材陣といっしょに
となり街・ヴァルドルフのイタリア料理店に行った。
ホッケンハイムの取材期間中、われわれがよく利用する店だ。

いつものレース後の会食の席と同じく、ここでも
次のレースまでの間、誰がどこで何をするかが話題の中心。
翌々週のオランダGPまでの間、どこにも行くアテのないボクが
シャルル・ド・ゴールから日本に帰るカメラマンのWさんをパリに送り
それ以外のヨーロッパ残留組みは
フランクフルト空港に寄って
ニースに向かうカメラマンのiさんを降ろした後
シャモニーに向かうことで話がまとまった。

食事が終わり、ヴァルドルフから5kmほど一般道を走って
アウトバーンに乗る。
ゴールデンリトリバーの毛並みのような色彩の麦畑が続く
まだ昼間のように明るい農村地帯を走りだして
“ああ、ドイツにいるんだ!”と実感した。
サーキット内で仕事をしている間は
インターナショナルであるがゆえに
なかなかその国らしさを感じることはできないのだ。


ホッケンハイム〜パリ間は約550km。
マンハイムからドイツの[A6]を
国境の町・ザールブリュッケンまで走り
フランスに入ってからは
メッツ、ランスを経てパリに至る
オートルート[A4]を
ただひたすら西に向かうコース。


ここからパリへ行くには、ほぼ真西に走り
ハイデルベルクとマンハイムの近くを通過し
ザールブリュッケンからフランスに入る。
なだらかな丘陵地帯を走るアウトバーンの
ところどころで雨が降っていた。
無人の国境を越えてからは、メッツ、ランス、パリと
ヴァルドルフから約550kmのクルージング。
道端の大きなディズニーランドの標識をすぎると
間もなくパリだった。