45 リンツ〜パッサウ(2)


この上なく平和なオーストリアの農村風景。
その中をゆっくりとドライブしていると
とある町外れにSPARがあった。
日本ではコンビニに分類したほうがいいが
オーストリアでSPARといえば、たいていどの街にもあるスーパーだ。

いよいよオーストリアにいられる時間が残り少なくなってきたから
このあたりで“Strahler”を買わねばならない。
“Strahler”とは、88年にオーストリアで発見し
90年の夏にまとめ買いして以来
毎日使っている練り歯磨きである。
こいつがなければ歯を磨く気がしない。(^_^;
これが世界一美味しい練り歯磨きだと思っているボクは
オーストリアに来たら、自家消費用とおみやげ用に
こいつを何十本かまとめ買いするのが
いつの間にか習慣になってしまった。


これがStrahler。
よく見かけるVademecumよりも
3倍くらいメントール辛い味。
チューブの能書きには
『7種類のハーブ入り』とある。
残念ながら95年にモデルチェンジして
Strahler mildになり
その名のとおりマイルドな
普通の練り歯磨きになってしまった。


駐車場にクルマを停め
入り口でカートを借りて店の中に入る。
オーストリアのスーパーでは、カートが有料のところが多い。
コインを入れてロックを外すとカートとカートの連結が外れる方式だ。
外観に似合わず、売場面積の大きな店だ。
入ってすぐのところから一番奥まで
右手の壁に沿って野菜と果物が並んでいて
近づくと畑の香りがする。
整然と区画された野菜の棚には段ボールの箱が乗せられ
その中で、みずみずしい色とりどりの野菜が
工業製品ではなく農産物であることを主張している。

野菜の棚の対面には、ボトル入りの飲み物が
ケースに入れて山積みされている。
ミネラルウォーターは3種類ほどあった。
どれも炭酸入り(Mit Kohlensaeure)なのは
オーストリアでは水道水もうまいので
炭酸なしでは売れないからじゃないかと思う。
そのうちのひとつ“Voecklataler”の1リットル入りボトルを2本
ボクはカートのカゴに入れた。

店の奥には、肉屋さんとパン屋さんが並んでいる。
パン屋さんの店頭では、大きなカゴにカイザーゼンメルが盛られていた。
値札には“Semmeln”と書いてある。
“小さなパン”を意味する南ドイツ、オーストリア地方の方言だ。
これも日本に持って帰りたかったが
帰国まで、まだ2週間もある。
最終日、フランクフルトで見つけたら持って帰ることにしよう。

店の真ん中あたりにお菓子のコーナーがある。
ビニール袋よりも紙箱入りのものが多いのと
1個1個の大きさに日本との違いを感じる。
あの瓦やまな板みたいに大きな板チョコって
誰が食べるんだろうと、いつも不思議に思っている。
オランダでもスイスでも売っているが
買っている人を見たことはない。

お菓子の棚から、ボクはカスタードパイのキットをカゴに入れた。
粉末のカスタードクリームの素と
10×25cm、厚さ1cmくらいのパイが2枚
そして、水(または牛乳)を計量するカップが入ったお菓子のキットだ。
84年にメカニックとしてGPを転戦していた頃
夜中におなかがすいたとき
こっそり起きてこいつを作って食べたものだ。
少々デカいが、軽いから、おみやげ用に2箱買った。

さて、最後は練り歯磨きである。
どこの国にもある“コルゲート”や“アクアフレッシュ”と並んで
Strahlerがムキ出しで棚に並んでいた。
チューブに“Ohne Faltschachtel”と書いてあるように
1ダース入りの段ボール箱から出すと
こいつはいきなりチューブ姿なのだ。
帰りの荷物がけっこう重そうなので
今回はとりあえず1ダースだけにした。

しかし、中箱のない練り歯磨きといい
リサイクルマークの入ったミネラルウォーターの瓶といい
オーストリアの省資源、または資源再利用は、かなり進んでいる。
そういえば、数年前にチロリアのバインディングを買ったとき
箱にリサイクルマークが入っていて感心したものだ。
駅や空港のトイレにあるトイレットペーパーやペーパータオルも
9年前に来たときから再生紙だった。




SPARで“売っている”レジ袋。
上は袋の表にプリントされた文字。
『環境保護のため、この袋は
繰り返し使用してください』
…といったような意味。
下は袋の底にある注意書きで
80%が再生原料で作られていることや
この袋を捨てる場合の方法などが
プリントされている。


結局、買い物は、水とお菓子と歯磨きだけだった。
6品目以下のお客専用の“クイックなんとか”という列に並び
何食わぬ顔で100ドイツマルク札を出した。
レジのお姉さんはちょっと怪訝そうな表情をしたが
すぐに電卓をはじき、オーストリアシリングでつり銭をくれた。
今回、結局オーストリアでは両替をしなかった。
それでも、財布の中のシリング札は
日本を出たときよりも増えている。

つり銭を受け取り、お姉さんにあいさつを済ませた後
レジを出たところにある空き箱の置き場から
適当な大きさの段ボール箱を探してきて、買ったものを入れた。
側面に、オーストリアの産物であることを示す
大きな“A”マークの入った
シャンピニョンの空き箱だった。
Strahlerもそうだし、水もそう。
他にも多くの製品に、赤の2本線(国旗の配色)で描かれた
“A”マーク入りの製品が増えている。


ミネラルウォーターにも
ラベルに“A”マークが入ったものが多い。
周りには“Austrian Quality”とある。


たぶん、今回のツアーでは最後の
オーストリアでの買い物を終えたボクは
再び農村風景の中の道を、パッサウに向かって走りだした。


エフェルディングから先
なおもドナウに沿って走るため
[129]から分かれ、[130]に入った。
[130]に入って32kmのところから
対岸がドイツ領となり
そこからさらに20kmで
パッサウの街の入口にある
ドイツとの国境に達する。