47 パッサウからフランクフルトへ(2)


思っていたよりかなり速いペースで走れたため
途中で昼食をとることにした。
17時48分。Aurach というパーキングエリアに入る。
どこにでもあるカフェテリアでサラダとコーヒーをトレイに載せ
調理係の兄ちゃんに魚のフライを注文した。
できあがると兄ちゃんが料理の名前を呼ぶシステムだから
先にサラダを食べながらも、耳はダンボ状態。
英語でだって最も苦手なジャンルのヒアリングなので
とにかく、唯一理解できる
“Fisch”の一語を聞き逃すまいと必死だった。

ところが、ボクの料理だけ
おばちゃんがテーブルまで届けてくれた。
“どうせアイツにはドイツ語はわからないだろう”
…と思ってくれたのか
このサービス精神は気に入った。
レモンとマヨネーズをたっぷりかけ、フィッシュフィレを平らげ
コーヒーを飲んでいると、雨が降ってきた。
マズい! ウェット路面は凍結路の次に苦手なのだ。

18時20分。昼食?を終えたボクは
再び[A3]を西に向かって走りだした。
ヴュルツブルクあたりから[A3]は交通量が増える。
走っているクルマの平均速度も高くなるが
道路は、登り坂や都市近郊を除くと片側2車線のままだ。
2車線が3車線になるところにも
ドイツならではの“きっちりした”交通規制を見ることができる。

どこの国でも、中央寄りが追い越し車線なのは同じだから
道幅が広くなるところでは
今までの走行車線の外側に、もう1車線作るのが簡単だ。
だが、そうすると、走行車線を走ってきたクルマは
そのまま走っていたのでは
外側から2本目の車線を走ることになってしまう。

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/   | ‖ |   \   / / /   \ \ \
|こ| | ‖ | | |   | | \   / | |
|こ| | ‖ | | |   | |  \ /  | |
|が| | ‖ | | |   | | | ‖ | | |
|活| | ‖ | | |   | | | ‖ | | |
|用| | ‖ | | |   | | | ‖ | | |
|さ| | ‖ | | |   | | | ‖ | | |
|れ| | ‖ | | |   | | | ‖ | | |
|な| | ‖ | | |   | |  / \  | |
|い|↑| ‖ | | |   | | /   \ |↑|
\   | ‖ |   /   \ \ \   / / /
 \  | ‖ |  /     \ \ \ / / /
  | | ‖ | |       | | ‖ | |
  | | ‖ | |       | | ‖ | |

     日本流             ドイツ流
それを、自分の車線をキープしたままで良くしたのがドイツ流。
“追い越し以外は走行車線”という考えが徹底している。
ちょっとした違いに思われるかもしれないが、この差は大きい。

どれだけ走っても
そのたびに感心させられるドイツのアウトバーン。
ふと気がついたら片側4車線にまで道幅は広がり
午後8時、フランクフルトの郊外にさしかかった。


ニュルンベルクから
フランクフルトまでは約230km。
引き続き[A3]を走るが
いくつもの谷を横切るため
アップダウンが多くなり
交通量も増えてくる。
とくに、ヴュルツブルクから先は
ドイツのアウトバーンの中で
最も険しい屈曲路の一つ。
そんなところを数珠繋ぎになって
みんながかなり飛ばしているから
いつ通っても緊張の連続だ。


Wさんが着くのは9時15分だから
もう、出迎えに遅れる心配はない。
外はまだ昼間と変わらない明るさだが、商店は閉まっている。
買い物はできないし
メシはさっき食ったばかりなので食べる気にならない。
…と、いろんな言い訳を考えたボクは
なつかしのカイザーシュトラッセ見物をすることにした。

カイザーシュトラッセはフランクフルトの中心部にあり
ゲーテ広場からハウプトヴァッヘ(Hauptwache)を経て
中央駅(Hauptbahnhof)に達するメインストリート。
何軒ものデパートや専門店、レストランが立ち並び
ショッピングの中心になっているのがハウプトヴァッヘだ。
それに対し、駅に近いところには、角をひとつ曲がると
その名も“Sex-Inn”とか“Peep Show”
などの看板を掲げた店が軒を連ねている。

そんな店と中華料理屋や中東料理屋が混在していて
いつ通っても、立ちションのにおいに混じって
明らかにヨーロッパのものとは異質な
タバコの香りが漂っていたりする。
フランクフルトの中心部にありながら
ここはもう、ドイツ世界ではない。

いつだったか、道端で
注射を打っていた連中がポリスに見つかり
壁に両手をついた姿勢で身体じゅうを調べられた後
どこかに連行されて行くのを
野次馬のひとりとして見物したことがある。
最後は、みんなでポリスに拍手喝采を送ってあげた。
そういった危険なにおいのする一角も、決して嫌いじゃない。

あたりを一回りすることにしたボクは
わずかに空いた路側の駐車スペースにクルマをねじ込み
手ぶらで夜の街に出た。
2階以上の窓に赤いランプの灯った建物の前では
けばけばしい化粧のビア樽みたいなおばちゃんが
「ちょっと兄ちゃん、いい娘いるよ。遊んで行かない?」
などと声をかけてくる。

ドイツ語がわかるわけじゃないが
こんなところで、それ以外のことを言うヤツがいるわけはない。
何年か前には、実際に日本語でそう言われたことがある。
今回、ひととおり怪しげな店の前を通過したが
日本語を聞くことはなかった。
わが同胞も、さすがにこのあたりの危ない店で
命懸けで遊んだりはしなくなったのか…?

“アブナい一角”の観察を終えたボクは、空港に向かった。