点火時期関係の話だけで、もう、雑誌のひとつき分以上の文字数を書き続けている。とにかくこれは、エンジンオーバーホール後、私が最も関心を持っているテーマであり、大げさに言うと“点火時期を制する者はエンジンを制す”くらいに思っている。出力増大よりもフィーリングの向上が“爽快チューン”の目標だから、ぬかりなくやっておきたい。 で、昨日は、6日の最後に書いた3つの方法について、具体的にどういう手を加えるかを考えるはずが、下手の考え休むに似たり〜命短し恋せよ乙女〜悩むより聞け、聞いてから悩め…とばかりに、閉店時刻直前のASウオタニに電話で駆け込んだ。 その結果、最も気になる発進時の “もたつき”について、魚谷さんに貴重なお話をうかがった。アイドル状態から回転数が上がり、進角を開始した後の角度の立ち上がりが、古いバイクほど急/新しいバイクほど緩…の傾向にあるらしい。ASウオタニの製品でいうと、私が使っているXJR1300用などは緩、 Z1/Z2用などは急の典型なのだそうだ。 XJ900Sディバージョンのマップでさえ、かなり急だから、 XJ900も、急なほうが良さそうな気はする。 魚谷さんと話していて、よく話題に上るのが、バイカーズステーション誌に連載されていた、横内悦夫・回想録“紺碧の天空を仰いで”の中の、 TSCC(Twin Swirl Combustion Chamber)の 開発によって点火時期を“遅角できた”というくだりだ。 燃焼室内の混合気が燃えやすくなればなるほど、点火時期は遅くする |
| のが普通だ。巷の、とくに四輪系のBBSやブログなどには、 どこまで点火時期を早めたかの自慢げな書き込みが多いが、それって、燃焼状態の悪さを暴露しているだけで、あまりお利口さんとは思えない。 さらに、魚谷さんの話では、フルパワーキットのダイアルによる点火時期の変化は、 1400rpmで始まり、2900rpmで 該当の度数になるとのこと。つまり、 1400rpm以下では、ダイアルの位置を変えても進角度数は変わらず、 1400rpmを超えたところから徐々に変化が現われ、 2900rpmに達するまでの間は、回転数の上昇にともなう進角度数の増加率(グラフの傾き)が、ダイアルを+側にしたときは大きく、−側にしたときは小さいということである。前に、ダイアルによる調整は、マップの全体を上下に動かす…と書いたが、それは 2900rpm以上での話であり、アイドル回転数〜2900rpmの間は、 単純な上下動ではないらしい。 これに対して、ピックアップコイルのマウントベース取り付け穴を長穴にし、ベースプレートを回転方向にズラすやり方の場合は、完全な上下動になる。アイドル回転時の点火時期がBTDC5度だったとして、ベースプレートをクランクの回転方向に5度ズラせば、点火時期は TDC(上死点)と一致するというわけだ。 “もう、こっちは調整不要”…とばかりにワイヤーロックしてしまったベースプレート取り付けボルトではあるが、発進時の“もたつき”解消のためには、ダイアルによる調整だけでなく、ベースプレートの回転に |
| よる変化も加味してやったほうが良さそうな気がしてきた。 問題は、ベースプレートで−、ダイアルで+なのか、ベースプレートで+、ダイアルで−なのか、どちらが良いかということである。立ち上がりの角度が急になるという点では前者が良いが、アイドル時の点火時期が遅くなりすぎるのは問題かもしれない。後者の場合は、立ち上がりの角度は緩くなるが、アイドル時の点火時期はフルパワーキットを装着する前のベストに近づく。 案ずるより産むが易し。ベースプレートの穴を広げるなんぞ、コンロ ッドの重量合わせと比べれば屁のようなものだ。ちょいちょいとリューターをかけて、とりあえず±5度程度動かせるようにして、さっそく両方の比較試乗をしてみた。 結果は後者。ベースプレートで進角側に振って、ダイアルで遅角側に戻すのが正解だった。ベースプレートで+5度、ダイアルで−8〜10度が今日のベスト。クラッチをつなぎはじめた瞬間から力感に満ちているのがわかり、 2000〜3000rpmの厚いトルク感が戻ってきた。振動も全域で明らかに低減。それでいて、一昨日までの、 4000rpm以上の良さは、まったく犠牲になっていない。 もちろん、細かな煮詰めは、まだまだこれからといった段階ではあるが、一昨日までが 100点満点中の60点だったとすれば、今日の改良は、一気に90点を超えるところにまで満足度を高めてくれた。最近試乗いただいた6人の方々には、ぜひ再試乗していただきたい(自信満々)。 |