XJ900の爽快チューン
2010年8月29日 - ソリッドステートリレー(SSR)を使った新作電装系の概要   
     
 電装系の新作などという大事業は本来、白紙と鉛筆を渡されて、すらすらと配線図が描けるくらい電装系の“全般”について、隅々にわたるまで“詳細”に把握し、頭に入っていなければ、できるものではない。
 ニューマシンの設計だって同じこと。最初に全体計画図を描いてから細かなパーツの図面に移っていく。ところが、今まで私がしてきたのは全体計画図も単品図もなしで部品を作るような作業だったのである。
 良い/悪いの話をしようというのではない。この方法しかなかったのだ。全体計画図を描こうとして断念し、自分にはこの方法しかないと気づくまでの間、半年近くかかった。
 ゴールデンウィーク明けあたりに作業を再開し、いろんなパーツの配置を決め、それをマウントするため

の支持具の類を作り、ようやく継電器箱(リレーボックス)の製作とワイヤリングに着手できる段階を迎えて、久しぶりに配線図を描こう(回路を考えよう)という気になった。
 バイカーズステーション10月号の連載記事(9月1日発売)の中にも書いた“時間がかかったり他よりも集中力が必要な箇所について考えるのは、それができる環境が整ってから始めても遅くない”のとおり、環境が整ったことにより、メンドクサいから考えずに済ませてきた点火系/始動系回路の検討を開始した。
 これまでに何度もサービスマニュアルに載っている配線図を眺め、漠然と感じていたのは“この時代に設計されたオートバイの電装系は、点火系/始動系/充電系/信号・照明系などの各パートの、ゆるやかな集

合体である”ということだ。
“ゆるやか”の意味するところは、パートごとに独立した回路が、わずか1〜2本の線(多くは電源ライン)で電装系本体にぶら下がっているということで、各パートが複雑にからみあって制御や駆動をしているわけではないということである。
 これがわかったことで心理的抵抗が減り、電装回路全体に関する理解が深まったのは言うまでもない。
 リレーを用い、電装系の配線を制御側と負荷側に分けるメリット、そして、ソリッドステートリレーの優れた点については27日のダイアリーに書いたとおり。しかし、 STDの回路のスイッチと負荷の間にリレ
ーをかませれば目的が達成できるかというと、そうはうまくいかない。
 電源の+と−の間に負荷があり、
点火系/始動系グループの概念図。信号・照明系とはバッテリーを共有する別回路と考えることで、頭の中が整理できた。描いた本人は、ダイオードの記号さえ記憶があやふやで、電気系はズブの素人なので、このあと専門家にチェックしてもらう予定。このページをご覧になってご意見のある方は、ぜひ、メールかBBSの書き込みでご連絡いただきたい。知らなかったことを知るのも、オートバイいじりの大きな楽しみのひとつなのだから…。
その負荷の+側にスイッチがあるのを+制御、−側にスイッチがあるのを−制御と呼ぶとして、実車には両者が混在しており、そのままではリレー化はできても配線の整理は難しい。そこでまず、制御側/負荷側とも+制御にする(制御側は電源の+とリレーの間にスイッチを、負荷側は電源の+と負荷の間にリレーを入れる)前提でワイヤリングを検討。その結果、ホーンを含む信号・照明系はすべてこれでいくことにした。
 難しかったのは、点火系と始動系だ。 1987年型以降のXJ900には、それまでのニュートラルスイッチとクラッチスイッチだけでなく、サイドスタンドスイッチをも付加した始動安全装置があり、それを新作電装系内にどう盛り込むかは、先に書いた
“メンドクサいから考えずに済ませ

てきた”ことのひとつだった。
 しかし、もう先送りはできないので、始動安全装置に必要な機能とそれがおよぼす電気的影響をまとめてみた。そして“ニュートラルに入っている  or(クラッチを握っている
and サイドスタンドが収納されている)”という条件が満たされたときに点火系と始動系の両方の電源がオンになればよいことがわかった。
 これをもとに描いた点火系/始動系の概念図が上の絵だ。メインスイ
ッチ(キーシリンダー)が2つの回路を開閉する構造なのを利用して、信号・照明系とそれ以外(点火/始動/充電系)を、バッテリーのみ共有する別回路として扱うわけだ。
 これにより、ニュートラルランプとタコメーターは、信号・照明系とは別に考えたほうがよいこともわか

り、ヘッドライトケース内の配線には部分的な見直しが必要になった。
 このあたりで、リレーについて書いておきたい。 SSRではなく機械式接点を持ったリレーを使う電装系の改造は、私にとって、約20年前に計画していた(計画倒れに終わった)
XJ750Eの大改造以来、常に頭の片隅にあった“いつかはやりたい”改造のひとつだった。それが再燃したのは、今世紀に入ってから知った SSRなる電子パーツのおかげである。
 SSRの構造や特徴については、 オ
ートバイの改造に使えそうなDC(直流)用 SSRを日本で製造している
ェルシステムのウェブサイト
にある
動作原理使用上の注意応用回路
などのページに詳しく書かれているので、ぜひ、ご覧いただきたい。
 で、これらのページを見たり、ジ
下がリレーによって制御側と負荷側を分けた回路。リレーを使えば、その作動に必要な電流しかスイッチを流さなくて済む。
モトガジェットのm-Unit。着想も設計も仕上がりも、さすが!…と唸る製品。私があまのじゃくでなければ使っていたと思う。
ETAのサーキットブレーカー一体型SSR。膨大な製品群からこれを選んだのは、LEDをトラブル診断に使えるからでもある。
ェルシステムに問い合わせたりしながら、 SSRを用いた電装系の新作に対するモチベーションが徐々に高ま
ってきたのが去年の秋ごろだった。
 そのころはまだ、全体計画図を描こうとしていた時期であり(笑)、同社の製品ではカバーできない大電流を制御できるDC用SSRを探して、 フランスのCelducの製品を見つけたりもした。 で、これらのSSRを使うには(使わなかったとしても)サーキ
ットブレーカー(ヒューズを含む)が必要である。そして、サーキットブレーカーを探している途中で発見したのが、 ドイツのETAサーキットブレーカーであり、サーキットブレーカー内蔵SSR(同社ではSSRと呼ばずにソリッドステート・リモートパワーコントローラーと呼んでいるので発見が遅れた(笑))だった。

 同じころ、グローリーホールが販売代理店をしているドイツのモトガジェットm-Unitという素晴らしい製品を知り、グローリーホールで現物を見て小ささと造りのよさに感動し、本国サイトにあるマニュアルを見たり輸入元に問い合わせたりして導入を検討。しかし、前照灯常時点灯を前提としていること/スタータ
ーリレーが別途必要なこと/パッシング機能がないこと/シーソー式デ
ィマースイッチが使えないことなどにより、即用できないとわかり、残念ながら採用は見送ることにした。
 続いて、ETAのE-1048-8Cの使用を前提に検討を進め、ようやく、必要な個数と電流容量(内蔵のサーキットブレーカーのブレークポイント)を決めたところだ。ただ、これとて最大が25Aであり、 スターターモー

ターには CelducのSCI0100600を2個並列に使うか、 ダメならSTDの機械式リレーでいくか…と考えていたところ、 eSwitchなるものを見つけ、萌えているところだ(笑)。まあ、実際に使うことはないだろうが…。
 で、先のE-1048-8C。これが8個、シート下に並ぶ予定である。大きさも金額(総額)もm-Unitを超えてしまい、グローリーホールの佐川くんに言わせれば「電子化して大きくなるなんて、アホちゃうん…と思われますよ」とのことで、冷静に考えてあまり賢いやり方とは思えない。
 だが、オートバイに限らず、趣味の機械いじりには、こうした“アホちゃうん”という自己満足や一点豪華主義みたいなところがあっても、本人が喜んでいれば、それはそれでいいのではないかと思っている。


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