その日、前日まで空を覆っていた鉛色の雲が切れ、何日ぶりかの青空が広
がった。雪の上に縞模様を描く並木の影は、路面を横切って道端の甜菜畑に
達している。まだまだ続く長く暗い冬の真っ只中に、こんなに明るい時間が
あったとは……。
クルマを停めて見渡すと、目に入るすべてのものが輝いていた。付着した
氷の粒子が反射する光のまたたきが、澄み切った空気を透過して景色の輪郭
を際立たせている。
温泉とユニットバスでは、同じ温度でも身体の暖まりかたが違うように、
ポーランドの寒さと日本の寒さでは、同じ気温でも身体の冷えかたが違う。
太陽は小さく遠く、地平線のすぐ上に昇ったかと思うと、間もなく大地の裏
側に姿を消す。
次に姿を現わすのは、明日ではなく数日後かもしれない。しかし、週にほ
んの数時間とはいえ、光の恵みは、氷の衣の中の新芽にも届けられ、やがて
それが十数時間になったとき、いっせいに芽吹くのだ。
それまでは、ときおり縞模様の上を進んでゆく馬車やトラクターを眺めな
がら、今日よりもほんの少し上に昇る太陽を、息をひそめて待っているのだ
ろう。平原を横切る道の並木にも、確かに、春の予感が宿っていた。
撮影地:Lublin(ポーランド)
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