城と泉への入り口 |
教会の裏手をぐるっとまわるようにして 川沿いの低い土地に降りると そこから砂利敷きになった小径は 大きな庭を囲うような感じの生け垣に添って あらぬ方向へ旋回をはじめた。 なおも進むと、そこに突然簡素な造りの門が現われ その前で分れた小径の一方は ゆるくカーブしながら門の奥へと消えていた。 表札はなかった。 そのかわり『シュロス/ドナウクヴェレ』と書かれた 小さな標識がぽつんと立っていた。 ひとりで旅をしていると、ごくまれにではあるが ふと、妙な気分に襲われることがある。 初めての土地なのに、前に来たことがあるような気がしたり 急に景色から話しかけられたような気がする 不思議な感覚だ。 そんなときはたいてい 鼓動が速まっていたり喉が渇いていたりするものだが このときのボクも、まさにそういった状態だったのだろう。 |
国道の橋にあった標識。 |
ボクは、古代ドイツの一民族で、南西ドイツやスイスに住んでいたといわれる アレマンネン人が、エスコ・アン・デル・ドナウと呼んだこの町で 自分を襲った不思議な感覚にただ酔い痴れながら もうひとつの看板に4か国語で書かれた一節に心を奪われていた。 ブルガリアのとある協会から贈られたその看板には、こう書かれていた。 AT THE SPRING OF OF THE DANUBE THE GLORIOUS RIVER THAT LINKS BULGARIA TO THE HEART OF EUROPE |