ブールジュをすぎた頃 
雲の切れ目に、ぽっかりと青い窓が開いた。 
ブールジュから先、ボクの古いミシュランのアトラスには 
オートルートが描かれていない。 
標識の[Clermont-Ferrand]の文字だけが頼りだ。 
 
どうやら、ボクが地図を買った後 
ブールジュからクレルモンフェランを経て 
モンペリエに達するオートルートが完成したようだ。 
走りながら、Wさんにもらった稲荷寿司を食べる。 
フランスの田舎の風景と稲荷寿司のミスマッチは笑える。 
日本の標準サイズより大きな稲荷寿司を4個も食べると 
もう、お腹がいっぱいになった。 
 
クレルモンフェランは小さな都会だった。 
乾燥した気候なのか、大きな木が少なく 
家々の壁の色はかなり濃い。 
庭に物干しを立てて、洗濯ものを干している家も目立つ。 
こういった特徴は、南ヨーロッパ特有のものだ。 
パリから南に400km 
そろそろ景観に南欧らしさが混ざってきて不思議ではない。 
ここに来る前は、もっと山あいの 
グルノーブルみたいな緑濃き町を想像していただけに 
ちょっと肩すかしを食ったような気分だった。 
 
クレルモンフェランの先でオートルートを下りた。 
どこかに行くアテはまったくない。 
今日、明日の2日間で、パリからバルセロナまでの 
まっすぐ行ったとすると1000kmちょっとの区間を移動すればいいから 
時間にはずいぶん余裕がある。 
新しく完成したオートルートに車の流れを奪われたのか 
並行して走る一般道[N9]を取り巻く景色は 
午後の光の中に惰眠をむさぼっているように見えた。 
 
  
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クレルモン・フェランから先は 
オートルートを下り、一般道を走った。 
新しく開通したオートルート[A75]と 
並行する一般道[N9]だ。 
このあたりの山地は 
ロワール川とガロンヌ川の分水嶺で 
St.Flour手前にある 
標高1114mの峠を越えると 
道は下りに変わる。 
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イゾワール(Issoire)や 
サン・フルール(St. Flour)といった 
フランスらしい名前の小さな街を通過すると 
道は徐々に曲がりくねり 
標高は低いが、ふところの厚い高原に登りはじめた。 
 
初夏のヨーロッパを走るなら 
クルマは断然サンルーフ付きに限る。 
今日はもちろん全開だ。 
ついでに運転席側の窓も全開にし 
ドアに肘をかけてフレンチ気取り。 
ときおり、うぐいすの鳴き声が聞こえてくる。 
 
どれほど登っただろうか… 
急に道が下りだし、視界が開けた。 
緩い右カーブを曲がった途端 
短い直線の前方に瀟洒なホテルが現われた。 
 
  
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とあるカーブを曲がった途端 
急に視界が開け 
坂の下に建物が見えた。 
入口の白いテントには 
濃紺で“HOTEL”の文字。 
また一つ、好みのプチホテルを 
発見した瞬間だった。 
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ホテルの向こうには、湖らしき水面が見える。 
ボクは思わずブレーキを踏んでいた。 
速度を落とし、観察しながらホテルの前を通過した。 
 
まだ午後5時だったから、泊まるわけにはいかない。 
それに、ホリデー中の宿としては値が高そうだ。 
レストランの雰囲気も、ボクにはちょっとハイソすぎる。 
だが、このロケーションに、あの外観! 
路肩にクルマを停めたボクは 
地図に印を付け、ホテルの名前をメモした。 
ついでに写真を撮った。 
 
“ちょっと待てよ…、泊まらなくても 
お茶くらい飲んでいけばいいんじゃないか?” 
これは名案だった。お茶を飲みに入れば 
中の様子がわかるし、宿代だって聞ける。 
ボクはクルマをバックさせ、正面に乗り付けた。 
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