サン・レモといえばカンツォーネ。 
シャンソンをイタリア語で表わすとカンツォーネだから 
ただ“歌”って意味なのだが“カンツォーネ”というとノリがいい。 
カンツォーネといえば 
真っ先に思い浮かぶのは“ラ・ピョージャ”だ。 
あの独特のリズムがなつかしい。 
 
昔はカンツォーネもよく聴いたものだ。 
今ではすっかり忘れてしまったのがくやしい。 
ラ・ピョージャを口ずさんでいるうちに 
サン・レモの街を通過してしまった。 
思ったより小さな、これといった特徴のない街だった。 
 
ここからしばらくアウトストラーダを離れ 
一般道[SS1]で海沿いを行くことにする。 
今みたいに超有名観光地になる前のニースの面影を追って 
地中海に面した古い街並みを見つけたかったのだ。 
 
杏理の歌うリビエラは、何だかもの悲しさに満ちていたが 
太陽降り注ぐこの時期は 
あの歌のような“おセンチ”は微塵もない。 
“雨”って意味の“ラ・ピョージャ”も変だけど 
こっちのほうがまだ似合ってる。 
 
走っているうちに 
どうしてもカンツォーネを聴きたくなってしまった。 
ラジオのスイッチを入れると 
流れてきたのはジョン・デンバーだった。 
彼の歌もなつかしいが、雰囲気じゃない。 
どこかでカセットテープを買おうと探したが 
シェスタの時間で、店はどこも閉まっていた。 
 
やっと1軒、ありそうな店を見つけたが 
ビデオテープしかなかった。 
カセットテープの代りにこの付近の地図を買った。 
イタリアの地図は、正確さはさておき 
描写の細やかさは芸術品だ。 
となりにアイスクリーム屋があったので、そっちにも入った。 
バカのひとつ覚えみたいに 
“ラム・レーズン”を頼もうとしたが、なかった。 
 
しばらく考えて“COCCO”と書かれた札を指差した。 
ココナッツの入ったアイスクリームだろう。 
でっぷり太った愛想のかたまりみたいなオバちゃんが 
「トゥット コッコ?(^_^)」と聞く。 
“トゥット”は音楽用語の“トゥッティ”の単数形。 
つまり“ソロ”の反対かな? 
ということは“全部コッコでいいのか?”という意味だな…。 
「シー シニョーラ」 
しばらく考えて、やっと返事ができた。 
 
やはりイタリアは音楽の国だ。 
モーツァルトの時代、ウィーン(に限らず)の宮廷音楽家は 
ほとんどイタリア人だったそうだし 
モーツァルト自身、イタリア語のオペラを多数作曲していて 
彼の4大オペラのうち3つまでがイタリア語で書かれている。 
 
何たってイタリア語はノリがいいし 
ひょっとすると音楽そのものかもしれない。 
「チンクエ、ディエーチ…、トレンタセ〜イ」なんて 
“フィガロの結婚”の中のアリアを口ずさめば 
知らない間にイタリア語の数の読みかたの勉強ができる。 
 
幼少の頃、こんなのばかり聴かされて育ったボクは 
幼稚園でモーツァルトのアリアを歌って 
先生をぶったまげさせたということだ。 
同じ園の後輩になったウチの娘は元気にしてるかな? 
そういえば、明日(20日)は父親参観日だったな…。 
 
やっぱり、バルセロナで見つけた 
“ニューヨーク往復66,000ペセタ”のチケットに 
持ってきたUAのアワードチェックを合わせて 
1日だけでも帰ってやれば良かったかなぁ…。 
いろいろ考えていると、頭の中がロンド・アレグロになってきた。 
あぶない兆候だ。 
 
道端でコッコを舐めながら、さっきの地図を見た。 
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