Wさんのフランクフルト到着は午後9時15分。 
迎えに行くボクは、ウィーンを出て9時間後に 
フランクフルトに着けばいいわけだ。 
区間距離は700kmちょっと。 
しかしボクは、この期に及んで 
大好きなオーストリア滞在時間少しでも引き延ばそうと 
あれこれ策を練った。 
 
“昼メシを30分程度で済ませて…” 
“晩メシはWさんと会ってからにして…” 
“空港でWさんが出てくるのに30分かかるとして…” 
“ボクの到着リミットは9時45分だな…” 
 
助手席のシートに広げたミシュランの地図帳に手を当て 
ドイツ側の国境の町・パッサウ(Passau)までの距離を測ってみた。 
1cmが10kmだから 
手のひらをいっぱいに広げて、だいたい200kmだ。 
ウィーン〜パッサウ間は260〜270km程度あった。 
 
  
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[A1]から[A7]に乗り換えて 
リンツ市内を通過し 
ドナウの北岸に出たところで 
アウトバーンを降り 
一般道で再びドナウを渡り 
南岸に出た。 
一般道[129]号線は 
ここからしばらく川沿いを走る。 
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“ということは、パッサウ〜フランクフルト間は400km少々か…” 
“全開で3時間を切るな…” 
“9時45分の3時間前は…? と 
6時45分か…。このあたりが限界だろうな…” 
ずいぶんいい加減な計算だが 
ヨーロッパでは、今までずっとこんな感じでやってきて 
失敗したことは一度しかない。(^_^;  
 
“仮にボクが事故や渋滞に巻き込まれても…” 
“Wさんだってオトナだから大丈夫さ…” 
“待ちきれずにどこかに泊まるんだったら…” 
“空港にメッセージを残すか 
日本の編集部に電話しといてくれるだろう” 
 
ミシュランの地図を見ると 
リンツからパッサウまで 
ドナウ河畔の道がおいしそうだった。 
リンツの南で[A1]から外れたボクは 
市内を突っ切る[A7]に乗って北に向かい 
ドナウを渡ったところで一般道に降りた。 
そして、ちょっと西にある橋を渡って南岸に戻った。 
ここからパッサウまで、ドナウの南岸に沿って走りたかったのだ。 
 
走りだしてすぐ 
この道を選んで正解だと思った。 
このあたりのドナウは 
ウィーンやブダペストで見た大河とは違う。 
山に挟まれた狭い土地を横切る中級河川だ。 
しかし、水量は豊かで、道を走りながらでも 
すぐそこに川面が見える。 
 
両岸には、山との間の細長い敷地に沿って 
三角屋根を持った4〜5階建ての 
ガストホッフやレストランが現われたりする。 
建物はみな、灰色、茶色、カラシ色の 
どれかで塗られていて、原色と寒色はない。 
 
  
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リンツのすぐ西の 
川沿いに走る129号線から見た 
ドナウと北岸の街並み。 
天気が悪く、写真もマズいが 
1984年に撮ったものなので 
お許しのほどを…。 
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一般道・129号線を西に向かって走り続けると 
左側に迫っていた山がなくなると同時に 
ドナウは右手の林の中に姿を消した。 
エフェルディング(Eferding)から130号線に入って 
なおもドナウに沿って走る。 
遠くの山の稜線も、土地の起伏も 
道の曲がり具合も、すべてがゆるやか。 
舗装は地表を這うようにして伸び 
道端には、名も知らぬ草が白や黄色の花を咲かせている。 
 
ところどころに現われる小さな街の中心には、必ず教会があり 
その近くにガストホッフやレストランがある。 
このあたりのガストホッフやレストランの建物は 
リンツ付近のドナウ沿いにあったものとは建てかたが違う。 
 
チロルでよく見るような木造建築が増えてきているのだ。 
高さや屋根の向き、回廊の有無などの特徴も異なっている。 
あっちが平地的だとすると、こっちは山地的なのだろう。 
都会と田舎の違いなのかもしれない。 
 
  
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川沿いから離れ 
なおも西に向かうと 
このような、回廊を持った 
方形の木造建築が増える。 
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色とりどりの花で飾られたガストホッフを見ていると 
泊まりたくなってくる。 
そのときのために、めぼしいものを地図にマークして先に進む。 
このあたりを運転するボクの目に映っていたのは 
自分が今まで見た中で最も心安らぐ景色だった。 
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