『吉村誠也のTOOL BOX』 オートメカニック・95年4月号

 工具メーカーのカタログには立派
なものが多い。クルマのように機種
ごとに作るわけにはいかないから、
どのメーカーも、自社の工具を網羅
した総合カタログを作っている。総
合カタログだから、当然、ページ数
は多い。中にはファコムのように、
A4版オールカラー・300ページ超の
ハードカバーのカタログを出してい
るところもある。        
 ページ数こそファコムに及ばない
が、スタビレーもオールカラーのカ
タログを出しているし、スナップ・
オン、ハゼット、ベルツァーなどに
もA4版・300ページ超のカタログが
ある。また、総合メーカーではない
PBもオールカラーのカタログを出
している。           
 これらの立派なカタログに共通し
た特徴は、見やすさである。見出し
を工夫したりシンボルマークを多用
するなど、どれも、短時間で目的の
工具を探すことができる。商品一覧
以外のページも充実しており、シン
ボルマークの解説や目次・索引はも
ちろん、自社製品の特徴を解説した
ページやネジの規格表、度量衡の換
算表なども付いている。     
 こうした、製品と同じような手間
暇をかけて作られたカタログを見る
につけ『工具造り』に込められた情
熱を感じないわけにはいかない。そ
こには、単なる消耗品としての工具

を作るだけではなく、それを作り、
供給し、正しく・大切に使ってもら
うことによってひとつの文化を形作
っていこうとするメーカーの誇りの
ようなものが感じられる。    
 クルマやオートバイに限らず、機
械製品の整備について書かれたマニ
ュアルは多いが、どんな整備にもほ
とんど工具が必要なのに、工具の使
いかたについて書かれたマニュアル
は少ない。工具メーカーのカタログ
には、この点にも配慮し、間違った
使いかたをしないように注意を呼び
かけるものがある。       
 一例を紹介すると、パイプを使っ
てレンチの柄を延長して使ってはい
けないとか、長い柄のレンチを使う
場合は柄を握っていないほうの手を
ヘッド部分に当ててレンチが外れな
いようにするとか、引き出し式工具
箱の引き出しを一度にたくさん開け
ないとか、タガネやポンチなどの叩
かれる工具にできた『返り』はヤス
リで削り落としなさい…など。これ
らはいずれも、以前のスナップ・オ
ンのカタログに出ていたものだ。 
 もちろん、カタログだから、自社
製品の優秀性をアピールするページ
もある。柄の中心線に対してスパナ
の口をオフセットすることによって
応力を分散しているのを示す測定デ
ータの表とか、鍛造によって作られ
ているため大きな力のかかる部分で

金属の流れが断ち切られていないこ
とを示す写真とか、ISO規格や実際の
ボルトと比べてレンチが十分な強度
を持つことを示す測定データの表…
など、これらはいずれもスタビレー
のカタログに出ている。     
 ネジに関係したところでは、どん
なサイズ(ネジの太さ=呼び径)の
ネジにはどんな大きさ(二面幅やサ
イズを示す記号など)の頭が付いて
いるかを、ネジ頭の種類(六角頭、
六角穴付き頭、+−のスクリュー、
トルクス、ポジドライブ、その他)
ごとに表わす表とか、ネジ径ごとの
ボルトの引っ張り強度と締め付けト
ルクの一覧表とか、どんな種類(材
質と表面処理)のボルトとどんな種
類(材質と表面処理)のナットを組
み合わせると摩擦係数はどうなるか
の一覧表…などは、多くのメーカー
のカタログに付いている。    
 眺めているだけでも飽きない欧米
の有名ブランドの工具カタログは、
コレクターズアイテムとしてだけで
なく、工具を使うための最も基本的
な教科書としても優れている。入手
は困難かもしれないが、有名工具シ
ョップなどで、一度、実物を手にと
ってご覧いただきたい。そして、た
だの商品リストとは違う、1冊のカ
タログ造りに込められた工具メーカ
ーの思い入れを感じとってほしい。
                


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