『吉村誠也のTOOL BOX』 オートメカニック・95年11月号

 近く、セルフサービスのガソリン
スタンドが解禁されるらしい。なぜ
今まで禁止されていたのか理解に苦
しむところだが、とりあえずは選択
の余地が広がるという点で、期待し
ていいと思う。         
 実は、私は(日本の、セルフサー
ビスではない)ガソリンスタンドが
あまり好きではない。クルマの前に
立ちはだかっての誘導に始まり、挨
拶もしないうちに、いきなり「レギ
ュラーですか? 満タンですか?」
「現金ですか?」「オイルと水は大
丈夫ですか?」「吸い殻やゴミはあ
りませんか?」「タンクの水抜き剤
はいかがですか?」等の質問を浴び
せてくるからだ。「るせーな、ほっ
といてくれよ…」と思いつつそれら
の質問に返事をしていると、今度は
頼みもしないのに窓ガラスやミラー
を拭いたり、灰皿に余計な芳香剤 
(私にとっては悪臭剤)を入れたり
してくれる。          
 私のクルマはたいてい汚いから、
拭いてもらえばきれいになる。しか
しごく稀には洗車する。ところが、
その直後であってもおかまいなく、
きれいとはいえない雑巾で拭いてく
れるのには閉口する。      
 こうして、やっと満タンになり、

金を払ったら、今度は「どちらです
か?」と、スタンドから出て行く方
向を聞かれ、こちらが左右の安全確
認をしようとする視界をさえぎる位
置にたちはだかって誘導される。そ
して、誘導してくれた彼(または彼
女)は、動きだしたクルマに向かっ
て「あらーたっした」または「あら
ーたっす」と声をかける。「あらー
たっした」または「あらーたっす」
のニュアンスは、関西以外に住む人
にはちょっとわかりにくいかもしれ
ないが、正しい日本語では「ありが
とうございました」または「ありが
とうございます」と表記される言葉
だ。ま、運転者ではなくてクルマに
向かって言ってるのだから、正しい
日本語である必要はないのかもしれ
ない。             
 これがサービス? とんでもない。
ただのおせっかいをサービスと勘違
いしている『サービス業』は、ガソ
リンスタンドに限らない。それらの
『サービス業』に共通するのは、お
せっかいを焼かれたくない客に対す
るサービスというものがあろうなど
とは考えもしないことだ。    
 おせっかいを焼かれたくない客の
ためにセルフサービスのガソリンス
タンドが解禁されたのではないこと

は明らかだが、理由はどうであれ、
そして、仮におせっかいスタンドと
の価格差が限りなくゼロに近かった
としても、私は間違いなくセルフサ
ービスのほうを選ぶだろう。   
 問題は、セルフサービススタンド
の登場で、従来のスタンドの『サー
ビス』に変化が生じるかどうか、そ
して、セルフサービススタンドが日
本に根付くかどうかだ。     
 クルマ社会に関しては先進国(だ
と私は信じている)である西ヨーロ
ッパでは、スペイン、イタリアと東
欧の一部、それにドイツとオースト
リアのほんの一部を除くと、ほとん
どのスタンドがセルフサービスだ。
オランダなどには無人のガソリンス
タンド(これはもう自動販売機の感
覚に近い)もある。       
 それらに共通しているのは、オヤ
ジが出てきて給油してくれるスタン
ドとの明確な価格差であり、営業時
間の長さである。        
 解禁後は、セルフサービスのスタ
ンドを選ぶ客がどのようなスタンド
を望み、セルフサービスではないス
タンドを選ぶ客がどのようなサービ
スを期待しているのかをよく考え、
それぞれの特徴を生かした共存の道
を探ってほしいと思う。     


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