12 バルセロナのホテルにて


ランブラス通りは、幅25mくらい。
真ん中に、幅15mくらいの歩道がある。
歩道の両端には街路樹がうっそうと繁り
その下に本屋、カフェバー、花屋なんかが店を出している。
ホテル・ロヤールは、そのランブラスの中ほどにあった。
なかなか高級そうなホテルだ。

玄関には、ドア番のオヤジがにこにこして立っていた。
車から下り、オヤジにあいさつし
ついでに自分の目を指差してから車を指差し
オヤジの反応をうかがった。
“車を見張っていてくれよな”の合図である。
オヤジの“シー セニョール”を確認して中に入った。

レセプションで聞くと
知人(以後、Mさんと呼ぶ)一行はまだ到着していなかった。
午後10時をすぎるだろうとのこと。
ついでに空き部屋はあるかと聞くと、それはなかったが
何を勘違いしたのか
「エキストラベッドを入れましょうか?」と聞かれた。(^_^;
“あのね〜、こっちはMさんに会ったことはもちろん
話したこともないんだぜ”
…と、説明しだしたらきりがないので
「近所のホテルを紹介してくれ」と頼んだ。
レセプションのお姉さんは外を指差した。

見ると、道の反対側に“Rivoli Ramblas”というホテルがあった。
「何かメッセージは?」と聞かれたので
“Mさん、ボクはとうとうバルセロナまでやってきました…”
なんてテキトーなことを書いてレセプションのお姉さんに渡した。
そして「部屋が見つかったら、またここに来ます」と言い残して
向かい側のホテルに向かった。

チェックインはすぐにできた。
同じ☆☆☆☆だが、Royal よりもさらに高級なホテルだった。
1泊朝食付きで17,500ペセタ。
最上階の非常階段に近い、ゴルゴ13が選びそうな部屋だ。
ゴルゴ13なら、ここからどこか怪しげなところに電話して
「白、黒、黄色とありますが、どのお花がいいでしょう?」
なんて聞かれるのだろうが、そんなヒマはなかった。
急いで向かいのホテルに行き、メッセージの続きを書いた。
“向かいの Rivoli Ramblas の704号室にいますので
お電話ください…”







Rivoli Ramblasは照明に凝ったホテルだ。必要なところが必要なだけ明るく、他は暗い。
それだけのことがとても気に入ったので、その後しばらく、バルセロナの常宿にしていた。
この街には、他にも、建物のライトアップや街路の照明などにハイセンスなものが多い。

ホントに久しぶりの、ヨーロッパではたぶん
ボクが今までに泊まった中で最高級のホテルだから
まず風呂に入った。それから洗濯をした。
電話は日本のと同じモジュラージャックだったから
アクセスは簡単だった。
TYMPASのバルセロナAPだ。
未読と業務連絡のメールを落とし
MESや返事を書いていたら11時をすぎた。
Mさんからは何の連絡もなかった。
“ああ、やっぱり嫌われちゃったのかな…”

そろそろ寝ようとしたとき、電話のベルが鳴った。
Mさんからだった。
「はじめまして…、合言葉は(……)でしたね…」
これがMさんとの最初の会話だった。
彼女は、こっちのホテルのレセプションから電話をしていた。
“しまった! メッセージにこっちの電話番号を書くのを忘れていた”
急いでエレベーターに乗った。
が、ヨーロッパのエレベーターはどこでも遅い。
ようやくレセプションに着くと
横のソファにMさんが座っていた。

明日の午後、彼女は自由行動だそうだ。
「もしうまくいけば夕食でもごいっしょに」
…ってことにして
初めてのバルセロナの夜にちょっと不安を感じていた彼女を
ホテルまでお送りして別れた。
(ただランブラス通りを渡っただけだが…)
ランブラスは、まだまだ行き交う人で賑わっていた。