14 ランブラスの一日(夜)


街路にあるカフェテラスは素敵だ。
どこも、4×6メートルくらいの
四角い帆布張りのパラソルを歩道上に並べ
近所の店から飲み物や食べ物を運んでくる。
夜は、パラソルの骨に取り付けられたハロゲンパンプが帆布を照らし
下のテーブルを間接光がやわらかく包む。

脈拍が正常に戻ったボクは、いったんホテルに引き上げた。
眠たくなったのでベッドに横になると、すぐに寝てしまった。
気がついたら午後8時だった。
時計を見てあわてたが、外を見ると真っ昼間だったので安心した。
写真はもういいので、今度は手ブラで外に出た。
カメラを持たずに歩くと
持っているときには見えないものが見えてくる。

このときもそうだった。
感じのいいパティオを発見した。
ランブラス通りに面した建物の隙間をくぐった中にある
150×50mくらいの大きな中庭だった。
真ん中に噴水があり、まわりにはヤシの木が植わっている。
パティオに面した建物にはアーチ形の屋根のアーケードがあり
そこにレストランのテーブルが並んでいる。
“夕食はここにしよう”


ランブラスは、夜もまた美しい。
蛍光燈ではもちろんなく
白熱球や水銀灯でもなく
ハロゲンランプ(ヨーソ球)が
照明の中心になっているのと
やはり、照明に関して
ハイセンスな街だからだろう。
そういえば、例年、夏の宵には
音楽に合わせて
ライトを浴びた噴水が踊る
Expo H'ogarというイベントが
市民や観光客で賑わっている。


しばらくランブラスをブラついてからパティオに戻り
さっきのレストランに入った。
日本語のメニューが出てきてびっくりした。
“カタルーニャ風そら豆の煮込み”と
“ナントカ風ナントカのナントカ”という(忘れた)魚料理を注文した。
飲みのもは白ワイン。
英語が通じるのにスペイン語で頼もうとして
「ヴィーノ ビアンコ ペルファボーレ」と言ったら
「それはイタリア語だぜセニョール」と笑われた。(^_^;

そら豆の煮込みは、何となく日本的な味付け。
ナントカのナントカは、鱈みたいな魚のトマトソースがけだった。
どちらもちょっと塩っぱかったが、なかなか美味しかった。
ワインもうまく、下戸のボクには珍しく、おかわりをした。
しばらくすると、酔いがまわってきた。
あたりはようやく暗くなりかけていた。
どこからともなくやってくるひんやりした風が
酔った身体に心地良い。
ギターを抱えた流しのオヤジや、花売りの老婆がやってくる。

日がとっぷり暮れてから、パティオを出た。
ランブラスは、相変わらず賑わっていた。
最後の一軒の花屋が店じまいをしていた。
その脇で、ハープを奏でているオヤジがいた。
南国に特有の、哀愁を帯びた調べ。
何曲か聴かせてもらって
帽子の中に100ペセタ硬貨を放り込んだ。
少し歩くと、今度はリコーダーを吹いている青年がいた。
そいつの足元にはシェパードが仰向けに転がり
そのお腹の上で鳩が寝ていた。
奇妙な取り合わせだが、それだけじゃあ金はやれない。(^_^;


カタルーニャ広場から港まで
約1.2kmのランブラスの
中央よりやや海寄り
地下鉄のリセウ駅から
リセウ劇場あたりの区間にも
カフェテラスが集まっている。
昼もいいけど
暑い夏の日、ここで
行き交う人々を眺めながらの
夕涼みはまた格別。


歩道のカフェは、まだまだ宵の口。
レストランで頼まなかったデザートとコーヒーがほしくなったので
そのうちの1軒で“タルタ デ マンツァーナ”と
“カフェ ソロ グランデ”を頼んだ。
去年、スペインのどこかで教えてもらった
薄切りのリンゴのタルトと
大きなカップに入ったブラックコーヒーを意味するスペイン語だ。
夜のランブラスがすっかり気に入ってしまったボクは
そこでまた、行き交う人を眺めながら
宵っ張りのスペイン人に溶け込もうとしていた。