22 領収書はリッチェブ〜〜タ〜〜


なおも同じような海沿いの街が延々と並ぶ[SS1]を進むと
やがて道は、白い岩肌むき出しの
入り組んだ海岸線に沿って走りだす。
海面からの高さは20メートルくらいだろうか。
こんなところにも、停められそうな空き地には
隙間なくクルマが停まっている。
バカンスのピークには、さぞ激しい渋滞が起きることだろう。

ちらっちらっと、エメラルドグリーンの海を見ながら走っていると
素掘りのトンネルがあった。それを抜けると景色が急変した。
海岸まで迫っていた山が後退し、海沿いには平地が広がる。
ノリ(Noli)という町を通過し
ヴァド・リッグ(Vado Lig)にさしかかったとき
ラジオから遂に“ラ・ピョージャ”が聞こえてきた。
ボリュームを上げ、なつかしい調べに聴き入った。

ほどなく、サヴォナの町に着いた。
サン・レモからちょうど100km。
ここから先の海沿いは、去年の5月の末
フィレンツェからバルセロナに向かう途中に走破済みなので
一般道[SS1]をやめて、アウトストラーダ[A10]に乗った。

またしても山が海に迫り、ここからジェノヴァまで
そしてジェノヴァからミラノに向かう途中まで
アウトストラーダはサーキットのごとく曲がりくねり
アップダウンを繰り返す。
ついつい“地元のヤツに負けてたまるか!”
…って気になって飛ばしてしまう。
車の性能がいいから、道を知らなくても勝負はできる。
でも、老若男女を問わず
全ドライバー平均アクセル開度はイタリアが一番だ。
みんなギンギンに、古ぼけたちっちゃなクルマで激走している。

こういうところで目立って速いのはフォルクスワーゲン・ゴルフだ。
エンジンをチューニングし足まわりを固めたGTIなんかが
イタリアの若者にはぴったりだ。
ヤツらには、どう頑張ってもついていけない。
BMWの3シリーズも、走り屋に人気があるようだ。
イタリア車は、エンジンはともかく足まわりで負けているのだろう。


コートダジュールから
ミラノに行くには
ジェノヴァまで海沿いを走り
そこから山を越えた後
パダナ・ベネタ平原を
突っ切るのが最短ルート。
ジェノヴァ付近の
アウトストラーダは
高速道路とは思えないほど
屈曲とアップダウンを繰り返し
クルマのドライブは
スポーツだと再認識する。


ジェノヴァの町をかすめて北に向かい、いくつものトンネルを抜け
ティレニア海側とアドリア海側
つまりイタリア半島を左右に分ける分水嶺を越えた。
ここからはゆるやかに、ロンバルディア平原に向かって下りていく。
ポー川を渡ると、ミラノまで、延々と続く直線区間だ。
このあたりののどかな田舎の景色の中も
いずれ、ゆっくり走ってみたい。

ミラノが近づくと通行料を払わなければならない。
イタリアでもフランスでもスペインでも
高速道路が有料の国には大都会に入る手前に料金所がある。
そこで料金を払った後
郊外にあるチケットゲートまでの間は無料なのだ。
高速道路がしっかり環状線になっていて、しかも無料!
これらの国々では、高速道路が
都市の交通網として、ちゃんと機能している。

ゲートにいたのはイタリア娘だった。
金額は電光掲示板に表示されるから
それを見て払えばいい。
問題は領収書。こちらから頼まない限り
たいていは出てこない。
ボクが「レシーボ ペルファボーレ」と言うと
イタリア娘が笑った。
笑いながら「リッチェブ〜〜タ〜〜」と、歌うように言った。


これがアウトストラーダの
リチェブータ(Ricevuta)。
入口で(たいていは自動発券機の
赤く大きなボタンを押して)
もらったチケットに
出口で料金を印字するだけ。


そうだった…、今の今まで“レシーボ”がイタリア語で
“リチェブータ”がスペイン語だと勘違いしていた。
スペインにいる間じゅう、ボクは
イタリア語で“領収書”って言ってたのだ。(^_^;