21 イタリア娘に見とれていると…


コッコを食べ終わって、再び海沿いの道を走りだす。
同じような街をいくつも通過する。
景色の構成を右から順に紹介しよう。
まぶしく輝く地中海があって
ビーチパラソルの並ぶ細長い砂浜があって、防波堤があって
車道があって歩道があって
あまり手入れされていない街路樹があって
道に面してテラスを設けたホテルやみやげもの屋がある。

防波堤と車道のわずかな隙間に
街の端から端までびっしりとクルマやバイクが停めてある。
イタリアナンバーのちっちゃなクルマに混じって
ドイツ、オーストリア、オランダ
ベルギー、スウェーデンなどのナンバーの
ミドルクラスの車やキャンパーが多い。


フランス側には
カンヌ、アンチーブ、ニース
モナコ、マントン…と
高級リゾート地が連なっているのに
イタリアのサン・レモより東に
これといった有名な街がないのを
以前から不思議に思っていた。
そこで、一般道を走りながら
『昔のニースの面影を残す街』を
探そうとしたのだ。


港のある街には、砂浜に並ぶビーチパラソルがない代り
国鉄の駅や商店街、高級ホテル、レストランなどがある。
こういった街には、地元の人の普通の生活もある。
バス停に、キュートなイタリア娘が立っていたりする。

濃い栗色の髪をなびかせ
たいてい、ふちまで黒いサングラスをしている。
背丈は低いのに
超ミニの黒または白のワンピースとハイヒールの間の足は長く
片方を“く”の字に組んでいる。
よく見ると、尖るべきところはちゃんと尖っている。
ドイツやフランスの大女を見慣れた目には、危ない刺激だ。
何たって、あのサイズと、気取っているところがいい。
澄ましてるんじゃなくて気取ってる。そこがカワいい。
思わず抱きしめたくなってしまう。

イタリア娘に見とれていると、運転も危なっかしくなる。
でも、きょろきょろわき見をして
急加速・急減速を繰り返してこそイタリア流。
みんながそうだから、こんな道で運転するには
前が空けば常に全開で突っ込める用意と
必要に応じてパニックブレーキが踏めるテクニック
そして何より、ちょっとくらい他のクルマに
当たったり当てられたりしても
笑って済ませる寛大な気持ちが必要だ。

そうこうするうちに、海に突き出た崖にへばりつくように
レンガ色の民家が密集した岬が見えた。
てっぺんを見上げると
葱坊主みたいな屋根の教会がある。
これだ! これこそ、ボクが探していた街並みだ。
標識にはインぺリア(Imperia)とあった。
いわくありげな名前ではないか!


地中海に突き出た小高い丘の
てっぺんを覆うように
密集した集落。
そこがImperiaに属する
Porto-Maurizioだった。
このあたりの街は、どこも
岬の先端の丘の上か
小さな入り江に面している。
ニースが有名になったのは
やはり、Baie des Angesという
地の利のおかげだろう。


岬をぐるっとまわって反対側に進むと
道は急に狭くなる。
港の正面にある駅前を通りすぎた途端
一気に坂を駈け上がり
港を見下ろす高台に出た。
車を停めてポルトマウリツィオの景色を眺めていると
下から踏切の音が聞こえてきた。

あわててカメラの用意をした。
山の上の教会と、それを取り巻く家々、そして左側の港を背景に
中央の駅から足元まで“ノ”の字に伸びる線路をフレームに収めた。
残念ながら、列車は逆行。
つまり、足元から駅に向かって進んでいった。


FS(イタリア国鉄)の客車を連ねた列車は
これからポルトマウリツィオ駅に停まり
出発してすぐにトンネルに入り
丘を覆う街の下をくぐり抜ける。
この位置から300mmで撮ったのが
上にある集落の写真。
ヨーロッパの客車列車には
いろんな国籍の車両をつないだのがあり
これを眺めるのも
鉄ちゃんの楽しみの一つ。