XJ900の爽快チューン
2010年1月24日 - クランクケース内圧について考える - プランジャー式減圧バルブのテスト   
     
 17日のテストの直後、バイカーズステーションの“爽快チューン”の原稿を書いた。あのとき体感した4種類のバルブの印象と、自分のマシンの減圧システム(吸気負圧による強制減圧)の印象を重ね合わせてみて考えたことについて、である。
 簡単に言うと、現状の吸気負圧利用の強制減圧に、排気負圧利用の強制減圧と差圧利用の自然減圧を上乗せすれば、現方式では効果が得にくい状況でも充分な効果が得られるのではないか…ということだ。
 いや、そんなのは今のシステムの構想を練っていた段階でわかりきっていたことで、どれかひとつを選ぶなら吸気負圧利用の強制減圧だった
…というのが正直なところだ。
 排気負圧利用の強制減圧は、大き

な効果が得られる反面、クリアしなければならない問題が多いし、差圧利用の自然減圧は、簡単な反面、効果が小さいと考えていたからだ。
 ところが、レデューサーを見た途端に、排気負圧利用の強制減圧におけるいくつかの問題をクリアする方策と、差圧利用の自然減圧において(強制減圧と併用した場合に)効果を高める方策がひらめいた。
 そんなわけで、17日のテストは、レデューサーやアエラのバルブを用いた差圧利用の自然減圧システムのテストでありながら、私にとっては別の意味を持っていた。つまり、効果の大小よりも、効き方や効いたときのフィーリングを中心に、個々の製品の違いを探ったのである。
 その意味で、テスト車がドゥカテ

ィのハイパーモタードだったのは好都合だった。90度Vツインという、並列4気筒と比べてクランクケース内圧変化が大きく、しかも変化のしかた(波形)が 360度クランクの並列2気筒やフラットツインよりも複雑なエンジンだからである。
 クランクケース内の圧力変化が大きく、波形が複雑なエンジンで好結果が得られるバルブは、変化が小さく、波形が単純なエンジンでも好結果を生むと予想できる。しかし、変化が小さく、波形が単純なエンジンで好結果が得られたバルブが、変化が大きく、波形が複雑なエンジンで好結果を生むとは限らない。
 このあたりは、いわゆる“クランクケース内を減圧すること”に、どんな効果を期待するのか…という目
エンジンに合わせて開発されているAELLAの各種バルブとNAGの汎用バルブ(左端)。いずれもプランジャー式バルブである。
的論につながる。機関内でのポンピングロスを減らすという、単純な機械効率の向上だけが目的なら、こんなに面倒なテストは不要だ。最もクランクケース内圧が下がるバルブ、または減圧システムを装着すればいいだけのことだから、簡単だ。
 だが、そうではなく、減圧によるメリットを享受しつつ気持ちよく回るエンジンにしたいのなら、ただ単にクランクケース内圧を下げるだけでは不充分で、平均値が下がってもなお明らかに存在する圧力変動を、どんな特性にするか(させるか)を考えなければならない。
 具体的には、バルブ(逆止弁)の敏感さ、追従性、封止能力、流量に対する抵抗変化の特性などを吟味する…といった作業が必要だ。
 で、この日の試乗。これは、又貸ししていたレデューサーを返してもらうついでに、もう一度、17日のテストで気になった4枚リードのレデ
ューサーと AELLAの専用品(DUCATI
M696用)の比較を、17日のテストとは異なる走行条件でさせてもらうべくお願いして実現したものである。
 実は、試乗に先立って、ひとつ、興味深い実験をしたのだが、これについては後日、別項で紹介したい。
 で、比較テストのほうはどうだったかというと、この日もまた当初の予定だけでは終わらず、最終的には10種類のバルブ、取りつけ方の違いを含めると13種類の仕様を、ほぼ同じ条件で比較することができた。
 前回のような 4000rpmからの勢いよい加速をしない代わり、ゆったりツーリングを想定した低回転・定開度からの微妙なスロットルワークに対する反応をメインに、エンジン始動〜発進時を想定した始動性(始動時のクランキングの感触)と極低回転でクラッチミートしたときのエンジンの反応、高回転で瞬時にスロットルを全閉にしたときのエンジンブレーキの効き具合とそこでの振動の大きさと波形などを味わった。
 当初予定していた4枚リードのレデューサーと AELLAの専用品以外にテストした8種類のバルブは、いずれもプランジャータイプであり、適合ホース内径、プランジャーの径/ストローク/重量、ハウジングの内容積/流路形状などに違いがある。
 テストした中には、他のスペックが同じでプランジャーの重さのみ異

テスト中のDUCATIハイパーモタード。4枚リードのレデューサーに容易に交換できるよう、太いホースを大きなRで取り回した。
なる製品、出口の内径のみ変えた仕様、まったく同じバルブで取りつけ位置と前後の配管のみ変えた場合などが含まれており、それぞれどのような違いとなって現われるのかを実際に走行しながら確認できたのは、願ってもない貴重な体験だった。
 とりわけ印象的だったのは、この機種用の AELLA製プランジャーバルブの出来の良さだ。下から上までリニアなトルクカーブと、加速中の振動の小ささは他を圧倒しており、エンジン形式に合わせた細かな造り込みの効果を感じることができた。
 この日のインプレッションは、各仕様それぞれについて400〜500字程度の報告書にまとめ、糟野さんに提出した。テストした中には開発中の製品もあり、また、すでに発売され

ている製品であっても、適合ホース径以外のスペックを公開しているわけではないので、詳細なレポートは非公開にさせていただく。
 さしつかえのない範囲で言えば、大径バルブのほうが高回転での伸びが良く、エンジンに近い位置に取りつけたほうが振動が低減(振幅が減少)し、プランジャーやリードにかかるプリロードが大きいもののほうがスロットルの開閉に伴う過渡特性がおだやかで、レデューサーよりもAELLAのほうが 振動の波形がスムーズ(振幅とは別)な印象を受けた。
 あとは、これらの違いが“なぜ”生じるのかを考え、自分のマシンに適したバルブ形式/諸元の製品を見つけ、必要なら手を加え、新しい減圧システムに利用したい。


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