XJ900の爽快チューン
2011年3月7日 - “作動開始入力”をキーワードに、プリロードの意味を考える   
     
 しばらくダイアリーの更新が滞っていたのは、続きの作業に熱中していたからではなく、端子箱内の結線
〜作動確認が終わった翌日から昨日までの間、まったく別のことをしていて、 XJ900に関する作業はこれっぽっちも進んでいないからである。
 その間、何をしていたか。私のことだから、もちろんバイクに関係しているのだが、今はまだ時期尚早なので、近日中(おそらく今月中)に報告させていただきたい。
 で、何も作業が進んでいないのにダイアリーを更新する気になったのは、表題のとおり、サスペンションセッティングにおけるプリロードの働きについて考える機会があって、それによって自分なりに理解が深まり、人様にお読みいただいても恥ずかしくないレベルの文章にまとめられそうな気がしたからである。
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 プリロードは、イニシャル荷重と呼ばれることも多い。 プリ(pre)や イニシャル(initial)の意味は
“前”や“初”であり、要は、車重や運動によって実際の荷重がかかる前に“あらかじめ”フロントフォークやリアショックのスプリングにか

けておくロード=荷重のことだ。
 便宜上、プリロードは“何mm”というふうに、長さ(距離)で表す。だが、これが実はプリロードをわかりにくくしているひとつの要因かもしれない。何mm…と表すのは、あくまで便宜上で、その目的は、縮めた長さに見合った大きさの荷重(kgf)
を与えておくことである。
 いや、ひょっとすると“荷重を与える”という言い方も、わかりにくいかもしれない。スプリングを手で押し縮めようとして力を加えれば、その力と同じ大きさの力でスプリングが手を押し返す。これがスプリングの“反発力”であり、プリロードとは“外から力がかかる前のスプリングに持たせておく反発力”と言ったほうがわかりやすいだろうか。
 で、プリロードをかけたショックユニット(フロントフォークやリアショック単体)は、プリロードが0(ゼロ)以上であれば、いくらプリロードをかけようが伸び切ったままで、そこからさらに伸びることはない。だからこそプリロードがかかるのだが(笑)、それを言い出すと話がややこしくなるので先に進む。
 つまり、0以上いくら大きなプリ

ロードをかけても、ショックユニットの全長は変化せず、ただ、スプリングの反発力が強まるだけである。
 そのショックユニットに(単体のまま)外から力を加えていくと、プリロード0の場合は0、プリロード10kgfの場合は10kgfを超えたところで初めて縮みはじめる。1kgf単位で話をすれば、プリロード0の場合は1kgf以上、プリロード10kgfの場合は11kgf以上、プリロード20kgfの場合は 21kgf以上の力を加えないと縮まないわけである。
 この、プリロードの大小で変化する“伸び切り状態から縮み始めるのに必要な力”を“作動開始入力”と名づけた人がいる。聞き慣れない言葉だが、言い得て妙どころか、最適のネーミングだと思う。
 そこで今後は、この力を“作動開始入力”と呼ぶことにしたい。先に書いた“プリロード=あらかじめスプリングに与えておいた反発力”を超える入力があって初めてショックユニットは作動するのである。
 ところが、実際にマシンに装着したショックユニットが伸びきっていることはほとんどない。車重その他がかかっているからだ。で、車重そ
同じスプリングで(ばねレートを変えないで)プリロードを増やしていくと、同じ大きさの荷重に対するストロークは減少する。荷重変化の大きさ(変化する荷重の差)が同じであれば、ストロークする位置は変わっても、変化量は変わらない。青が荷重、赤がストローク。縮んでいれば両者は比例するが、伸び切り後は作動開始入力が得られるまでリジッドになる。
の他による力と同じ大きさの反発力が得られるところまで、スプリングが縮み、そこでバランスしている。
 ここでプリロードを増やすとどうなるか…。答えは簡単だ。プリロードの増加によって反発力が強まるから、その分だけバランスポイントが高いほうにずれ、ショックが伸び、車高が高まるのである。
 静的な話に限定すれば、プリロードを10kgf増やしても 車重その他による荷重を 10kgf減らしても、ショックの縮み具合は同じである。
 これらのことから、プリロード調整というのは、車重その他による荷重の増減による姿勢変化を補正するためのものであり、セッティングの要素としては“全伸〜全屈の間の、どのあたりを使うか”を決めるためのものだと考えればよい。
 プリロード調整で可能なのは“どのあたりか(位置)”の変更であって
“どれくらい(幅)”の変更ではない点に注意が必要である。
 具体的には、 ストロークが100mmのフォークの40〜80mmを使うのか、30〜70mmを使うのかを決めるのがプリロード調整の目的であり、どちらも40mm使っていることに変わりはな

い。この40mmを増減させるためにはばねレートを変える必要がある。
“プリロード調整なんて車高調整と変わらない”と言う人もいる。プリロードの何たるかを理解しているのはわかる(笑)。だが、プリロード調整で底突きを回避することはできても、車高調整でそれはできない。プリロードとの関りで言えば、プリロ
ード調整の結果生じる車高の変化を補正するのが車高調整といえる。
 くどいようだが、プリロード調整によって変わるのは、荷重と反発力がバランスする位置のみで、同じ入力(荷重変化)に対するストローク(伸縮の幅)は不変である。
 ではなぜ、プリロードを増やすとスプリングが硬くなったような気がしたり、ゴツゴツした乗り心地にな
ったりするのか…。
 それはおそらく、プリロードを増やせば増やすほど、走行中に伸び切りが生じやすくなるからだと思われる。路面の突起で突き上げられたような場合、ショックユニットは、縮み〜伸び〜縮みを経て復元する。
 その“伸び”のところで伸び切りに達したとすれば、次の“縮み”過程では、作動開始入力を上まわる荷

重が得られるまで、一瞬とはいえリジッドとなり、それがゴツゴツした感触を生むのではないだろうか。
 上の図からも明らかなように、プリロード(初期荷重)が大きくなるほど、小荷重時に伸び切りが生じやすく、作動開始入力が大きいからリジッドになりやすいのである。
 ただ(再びくどいようだが)これはスプリングを何mm縮めてセットしたかという“長さのプリロード”の話ではなく、伸び切り状態のショックユニットに 何kgfの反発力を与えているかという“力のプリロード=作動開始入力”の話であり、一概にプリロード(長さ)を大きくすると硬い感じがする、あるいはゴツゴツする…と考えるのは早計である。
 これらのことを考えるときには、mm表示が定着した“プリロード”よりも、力の大きさである“作動開始入力(kgf)”を用いたい。両者の関係は、単に“ばねレート(kgf/mm)”
に“プリロード(mm)”を掛けたのが “作動開始入力(kgf)”にすぎず、それこそが本来のプリ“ロード”であるにもかかわらず、別語の“作動開始入力”を用いたほうが混乱しにくいのではないだろうか。


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