2011年12月14〜22日 - 試行錯誤の末、ダンパーオイル、グリス、他の油脂類がほぼ決定 |
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表面処理を済ませたロッドを手に“あ〜、下地にWPCをしても、DLCってヤツは、やはりシール類との相性が悪いんだな…”と、少々落胆したのは事実である。しかし、クロームメッキに戻したり、 そこにWPCだけ処理する気にはならなかった。 そこでまず、ロッドと直接摺動するダストシールとオイルシール(Xリング)について、いろんな潤滑剤を片っ端から塗って動かしてみて、スティックしにくい物を探すとともに、それぞれクロームメッキのロッドでも同じことを試し、WPC+DLC処理の良さを生かす方策を探った。 10種類近い潤滑剤だけでなく、それらのいくつかをブレンドした物をクロームメッキとWPC+DLCの2本のロッドでテストし、ひとつ終わるごとに洗浄と脱脂をするから、とても時間がかかる。おまけに年末進行の影響で4媒体の締め切りが重なり、1日1時間くらいしかガレージに籠れないという事情もあり、このテストに1週間以上かかってしまった。 最初に試したのは、潤滑剤を塗ったダストシールをロッドに通し、低速摺動、高速摺動、折り返し、停止状態からの動きはじめ、停止時間の長さによる差、階段状のストップ&ゴー、その区間のノンストップ通過など、さまざまな動かし方をしたときの、動きやすさ、抵抗感、スムーズさ、振動、表面の色、潤滑剤の盛 |
| り上がりと途切れ具合などが、潤滑剤を替えるとどう変わるかである。 これはなかなか興味深かった。興味深いおかげで、途中で放り出さずに、およそ10種類の潤滑剤と、それらの中から2種類を混合したいくつかの組み合わせまでテストできた。 結果的に最も良かったのが、アッシュのプロテクションXをベースにシリコンオイルを混ぜた物だった。最初に試したのは、そのとき手元にあったオイルとグリスで、その中ではアッシュのエンジンオイル (FSE 10W-50)が良かった。これはひょっとすると、 エステルの極性基がDLCにも吸着するのではないかと考え、アッシュの製造元社長でオイル技術者の岸野さんに報告&相談した。 そして、エステルの“塊”みたいな(実際にはコンプレックスエステルをベースに粘度調整剤として他のエステルを配合した物)プロテクシ ョンXなら、50番のエンジンオイルの2倍くらい固いから、グリス代わりに使えるのではないかとのアドバイスを得、さっそく購入した。 プロテクションXは、とびきり優れたところはないが、他のオイルやグリスで感じられる“これはちょっといただけない”という問題点がない。ロッド上の10cmほどの区間を、可能な限り速く手を動かして1000往復させるテストをしたところ、次第に抵抗感がなくなっていくのがわか |
| ったのはプロテクションXだけで、おまけに、クロームメッキのロッドよりもWPC+DLC処理をしたロッドでのテストのほうが明らかに軽かったのもプロテクションXだけだった。 個別項目でプロテクションXよりも優れていたのは、シルコリンのダンパーオイルを塗ったダストシールをWPC+DLC処理したロッド上で速く動かしたときの抵抗感で、まるでシ ールによる締めつけがなくなったのかと思うほどの(またはホッケーゲ ームを連想させる…と言うと歳がバレるか?)滑りの良さを感じる。 その反面、シルコリンは、折り返しや動きはじめのスティック(張りつき)が強く、これはちょっといただけない。しかも、使うのがオイルシールではなく、その外側のダストシールだから、耐久性(長くそこに留まっている性能)も重要なので、プロテクションXに決めた。 シリコンオイルを混ぜたのは、ほんの出来心からである(笑)。以前、いろんな物を混ぜ合わせてステアリングヘッドベアリング用のスペシャルグリスを作ったのを思い出して、ゴムと相性が良いシリコンオイルなら…と、プロテクションXの上にスプレーしてみたのである。 結果は、質的な変化よりも量的な変化というべきか、プロテクションXのフィーリングはそのままに、動きはじめの抵抗感がさらに小さく、 |
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スムーズ感がさらに増した。ただ、結果がどんなに良くても、時間の経過とともにシリコンがエステルに悪さをしたりすると嫌なので、またまた岸野さんに電話で相談。シリコンは無機だから大丈夫…との返事を聞き、安心して使えるようになった。 続いて、ダストシールに代えてオイルシール(Xリング)を用い、ダストシールのときと同じような方法で、ダンパーオイルの比較テストをした。 シルコリンのPRO RSF 5WTとアッシュのFS FD #30の、 どちらを使うかを決めるためである。 いったんシルコリンを使うと決めたのに、ここでアッシュを試したのは、プロテクションXのおかげで、高級エステルの含有率が高そうなアッシュのほうが、 DLC膜との相性が良いのではないかと考えたからだ。 私にとって、化学合成油であるという以外は正体不明のシルコリンよりも、 PAO(ポリアルファオレフィン)とエステルの混合油に、一般的な作動油に含まれる消泡剤その他の添加剤と、一般的な作動油には入っていない減摩剤を加え、たいていの作動油(フォークオイル、ダンパーオイルを含む)に含まれているポリマーを使用せずに高温時の粘度低下を防いでいる…とまで正体を把握している(笑)アッシュのほうが安心… という気持ちも大きく作用した。 で、両者の比較結果をひとことで言うと“スムーズさのアッシュと動 |
| きやすさのシルコリン”である。逆に、問題点は“粘っこい抵抗感のあるアッシュとスティックが激しいシルコリン”と表現できる。 どこかから「そりゃあアッシュのほうがオマエ好みじゃん…」という声が聞こえてきそうだが(笑)、動きはじめと折り返しを除くシルコリンの、とくに高速作動時の、まるで接触していないのではないかと錯覚するほどの抵抗のなさは驚異的で、スティックさえ何とか防げれば絶対こ っち!…と言いたいほど魅力的だ。 そこで、みたび、岸野さんに電話をした。摂氏40度のときの動粘度が26.7cStのシルコリンと30.2cStのア ッシュを比べると、アッシュのほうがかなり粘っこく、抵抗感が強いのはなぜか…と質問すると、それは動粘度ではなく、粘度特性の違いによるものでしょう…との回答。動粘度 というのは、動粘度計で測る自由落下時の所要時間をもとにした“流れ落ちやすさ/にくさ”を数値化したもので、オイルの性質を示す“ひとつの指標”にすぎず、動粘度が同じ程度だからといって抵抗感が同じくらいとは限らないとのこと。 そして「たぶん、ウチのFDオイルだと、1〜2ランク粘度の低いのを使 ったほうがいいかもしれません」との具体的アドバイスを得た。 そこで、 間もなくアッシュの#20をテストする予定で、確定はその後とはいえ、今やっているのはセッテ
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| ィングではなくオーバーホールであ って、これが終わった状態が以後のセッティングのスタートラインなのだから、 アッシュの#20でスタートしそうな気配が濃厚になってきた。 DLCなしのWPCのみでシルコリンってのも気になるが(笑)、気にしてばかりでなく、先に進もうか。 最後に、今回、岸野さんと何度もやりとりした中で、以前から気にな っていた2つの質問をし、回答を得たのでつけ加えておきたい。 ひとつは、Oリングやオイルシールに対するエステルの攻撃性(膨潤させる)が言われるが、問題はないか?…という質問で、これには、ややムッとして(笑)、そうならないように、手に入りにくく、高価な材料(分子構造の複雑なコンプレックスエステル)を使ってるんです…との答が返ってきた。加水分解にも強い耐性を示すとのことである。 もうひとつは、カタログやHPにFD(フォーク・ダンパー)オイルが出ていないので、そのうちなくなるのではないかと心配している人がいますが?…という質問で、これには、実は、以前からオイル以外に四輪用ショックアブソーバーの製品開発をしていて、今後、さらに積極的に展開していくので、FDオイルにも今まで以上に力を入れていきたい…との回答だった。アッシュのフォークオイルをお使いの方はご心配なく…と伝言を依頼されてしまった(笑)。 |
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組み立て用ケミカル類(ほぼ決定) ダンパーオイル…A.S.H. FS FD OIL #20 オイルシール(Xリング)用潤滑剤:A.S.H. PROTECTION-X ダストシール&ダンパーロッド表面用潤滑剤:A.S.H. PROTECTION-X + Silicone Oil フリーピストンOリング用潤滑剤:Super Lube Multipurpose Grease リザーバータンク内壁用潤滑剤:Super Lube High Temperature & Extreme Pressure Grease ニードルバルブOリング用潤滑剤:Super Lube Multipurpose Grease その他のOリング用潤滑剤:AZ Food Oil 車高調整ネジ部潤滑剤:Wako's Thread Compound ネジロック剤:Locktite 243 |
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