5月号で整備ミスの話をした。時
間と気持ちに余裕を持って、できる
だけ明るい環境で整備することが、
整備ミスを避けるための大切な条件
だといった内容だった。しかし、整
備ミスの原因は、この他にもいろい
ろ考えられる。私の場合、最も多か
ったのは連携ミスだ。
通常、オートバイのレーシングマ
シンの整備は、エンジンから車体ま
わりに至るまで、一人で行う。自分
で予定を立て、自分で用意をし、自
分で整備して自分で片付ける。この
あたりはサンデーメカニックが自分
のクルマを整備するのと何ら変わら
ない。一人でするから、進行状況は
常に頭に入っている。
ところが、普段なら一人でできる
作業を、時間がないとか、時間はあ
っても早く終わりたいとか、相手が
暇だとかいった理由で人に手伝って
もらうことがある。気を付けなけれ
ばならないのはこういうときだ。自
分が人の整備を手伝う場合も同じ注
意が必要だ。
どちらが主導権を握るのか、どち
らが進行を管理するのか、どちらが
最終チェックをするのか、どちらが
責任を負うのか。これらをはっきり
させ、常に頭に置いて作業しないと
思わぬ落とし穴にはまってしまう。
結局一人でしたほうが速く確実だっ
たというのでは、手伝ってもらう意
味がない。
レースでは、ピット作業が最も問
題になりやすい。ピットインしてき
たマシンに対して、前後のサスペン
ションや左右のキャブレター調整な
ど、一人で動き回るよりは2人で手
分けして作業にあたったほうが効率
的なことが多い。
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独立した複数のキャブレターを持
つマシンでは、ピット作業の時間短
縮のため、左のキャブレターの調整
を自分でやり、右のキャブレターの
調整を人に任せることが多い。この
場合、2セットの工具と備品が揃っ
ていれば問題ないが、ガソリンの受
け皿が1個しかなかったり、ひどい
場合にはドライバーが1本しかなか
ったりする。
2人で作業するのに工具が1セッ
トしかない場合、メガネレンチでキ
ャブレターのドレンボルトを外し、
出てきたガソリンを受け皿で受け、
ガソリンが抜けたら、向こう側で待
っている相手にメガネレンチと受け
皿を渡し、それからドライバーでジ
ェットを脱着し、それが終わったら
ドライバーを相手に渡し、代りにメ
ガネレンチを返してもらってドレン
ボルトを締め付ける……というふう
に、作業は繁雑になり、途中に待っ
たり待たれたりする時間が生じる。
工具や備品の行き来と、待ったり
待たれたりする時間。この二つは、
どちらも、作業のスムーズな進行を
妨げ、作業者の頭を混乱させる。
受け皿の中に入っているドレンボ
ルトを見ても、2人ともお互いに、
相手がこれから取り付けるものだと
思い込んで、結局ドレンボルトを閉
めないままキャブレターを取り付け
てしまい、フューエルコックを開け
た途端にピットロードにガソリンを
ぶちまけてしまうなどという、一人
で作業をしていれば考えられないア
クシデントが起きたりする。
耐久レースなどでは、もっと多く
の人間に細分化され、トータルでひ
とつの作業が完成する場面が多い。
タイヤ交換などがその典型だ。オー
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トバイのフロントホイールの場合、
ホイールを貫通するアクスルをフロ
ントフォークがくわえる構造になっ
ていることが多い。アクスルを緩め
るためには、まず、アクスルをくわ
えている小さなボルトを緩めなけれ
ばならない。
こういった構造のため、ホイール
交換を何人かで分担すると間違いが
起きやすい。ホイールをセットする
係、アクスルを通す係、アクスルを
締め付ける係、締めたアクスルをフ
ロントフォークに固定するボルトを
締め付ける係など、耐久レースでは
これらの一連の作業を細かく分けて
何人かで分担するのが普通だ。
それぞれが全体の作業順序を把握
し、自分の受け持つ作業を確実にこ
なしているうちは問題ないが、いつ
もマニュアル通りに事が運ばないの
がレースの世界。ボルトをねじ切っ
てしまったり、誰かが他の緊急の作
業に追われて所定の位置につけない
こともある。
間違いが起きやすいのはこうした
ときだ。予定と違うメンバーで、予
定と違う作業を分担しなければなら
ない。ここで臨機応変に、そして、
速く確実に作業を進めるためには、
全員が全体の作業を把握するととも
に、最終的なチェックを誰がし、誰
が作業全体に責任を持つかを決めて
おくことが大切だ。
この点は日常の整備に関しても同
じことがいえ、自分が自分のクルマ
を整備していて、途中で誰かに手伝
ってもらった場合、作業全体にわた
る最終チェックは自分でし、全責任
を自分で負う心づもりを忘れないよ
うにしてほしい。
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