15 再びフランスへ

18日朝。昨日よりは目覚めが良かった。
適度のアルコールは快い眠りを約束してくれる。
7時半になったので
けっこうちゃんとした格好で朝食に行った。
高級ホテルはこれだから面倒クサいけど、そこがまたいい。
中2階の朝食室で
カタルーニャ人のビジネスマンに混じって朝食を食べていたら
階段を登って、Mさんがやってきた。
8時にバスがきて、バルセロナの空港に向かい
マドリッド経由で帰国だそうだ。

部屋に戻ったボクは
今度はラフな格好で、カメラ片手に表に出た。
Mさんのバスは、少々到着が遅れていた。
ホテルの玄関でドアボーイをしながらバスが来るのを待ち
Mさんを見送った。
それから、またしてもランブラスを往復し
開店の準備をしているお花屋さんの写真を撮った。
1時間ほどして部屋に戻って旅支度を済ませ
アクセスしてからチェックアウトした。

ガレージから玄関までは、ホテルのボーイがクルマを運んでくれる。
荷物を抱えて表に出、歩道上でクルマを待った。
だが、10分待ってもクルマは来ない。
ガレージまでの道で知り合いにでも会って
ひとしきりおしゃべりでもしているのだろう。
スペインやイタリアでは
おしゃべりのために仕事が遅れるのは日常茶飯事だ。
通りを眺めていると、やはり、スペインの車は汚い。
洗車なんて、年に1度もしないんじゃないだろうか。

30分ほど待って、やっと
ここでは見慣れないドイツナンバーの車がやってきた。
まわりの車に負けず、汚かった。
フロントガラスにこびりついた無数の虫の死骸が
ここまでの激走ぶりを物語っている。


ヨーロッパを旅した人には
おわかりのように
どの国でも、大都会から一歩外に出ると
途端に“田舎の香水”が香り
けっこうな高級レストランでも
蝿が飛び回っているから
フロントガラスやナンバープレートが
すぐにこんなふうになって当たり前。
慣れてしまえば
たいして気にならないが
忘れてワイパーを動かすと
大変な目にあう。


久しぶりにハンドルを握ったボクは
荷物を積んでくれたボーイに200ペセタ渡し
ランブラス通りを北上した。
そういえば、昨日ここに来るまでの間
信号待ちのフロントガラス洗いに会わなかった。
“まあいいや、ガソリンスタンドで洗おう”
と、思っていたら、渋滞にひっかかった。

前を見ると、スペインならではのタバコ売りの他に
フロントガラス洗いのおっさんがいた。
クラクションを鳴らしてそいつを呼んだ。
虫の死骸をゴリゴリ削り落とし
全体を水洗いし、ゴムのワイパーで水気を取る。
ここまでの作業を、ものの30秒ほどでしてしまう。
クリーンなフロントガラスは快適そのもの。
おっさんに100ペセタ硬貨を除く小銭を全部
(たぶん80ペセタくらい)渡し
海のほうに向かった。

いつもアウトピスタばかり使っていたから
今日は海沿いの一般道を走りたくなったのだ。
海に突き出た小さな岬と、その間にある短い砂浜を縫う
日本のどこにでもあるような海沿いの道だった。
違うのは、砂浜に臨んで林立するリゾートホテルの色。
ここではすべて、乾燥したレンガ色である。
早い者はもうバカンスに入ったのか、街ごとに、道は渋滞していた。

街をすぎると道は登りになり、小さな岬の根元をかすめる。
崖っぷちには、ヤシの木やリュウゼツランなどが自生している。
ところどころに見える鮮やかな紫色は
日本の“テッセン”と同じ色の
アサガオくらいの大きさのヒルガオだ。
実は、ヒルガオかどうかはわからないのだが
真っ昼間に咲いているからヒルガオじゃないのかな?

北に向かうにつれて渋滞がひどくなってきた。
Costa del Solとか Costa Bravaと呼ばれる
超有名リゾート地だからしかたない。
一般道をやめ、アウトピスタに乗った。
間もなくフランスとの国境だった。
フランスよりスペインのほうがガソリンが安いので
国境寸前のガソリンスタンドで満タンにした。


バルセロナから北へ
海岸線づたいにフランスに向かうと
そこはもう、世界のリゾート。
ヨーロッパじゅうから観光客が集まる
コスタ・ブラバやコスタ・デルソルだ。
フランスのペルピニャンは
国境で分断された
北カタルーニャの中心都市。
アンドラへは、ここから
約170kmの道のりだ。


フランスに入り、オートルートを走っていると
不意に、あの砂嘴の上にある街に行ってみたくなった。
ペルピニャンでオートルートを出た。
料金所のお姉さんに「ボンジュ〜ル」と言われた途端
フランスフランの小銭を
トランク内のスーツケースに入れていることに気がついた。
「アン モマン スィルヴープレ」(^_^;
「ウィ ムッシュ〜」(^_^)

カッコ悪いなと思いつつ、右側のドアからトランクにまわり
小銭を取り出してお姉さんに渡した。13フランだ。
「ヴワラ」
「メルスィ〜、オルヴォワ」
「オルヴォワ」
いつまでたっても、ボクのフランス語はこれ以上進歩しない。




フランスのオートルート
(高速道路)は有料だ。
お姉さん(稀にオッサン)が
いるゲートが
“金なし”ではなく
“小銭なし”の意味だろう
“Usagers sans Monnaie”で
自動のゲートが“Automatique”。
クレジットカードは
スペインでは100%使えるが
フランスでは
使えないところのほうが多いから
小銭の用意が必要だ。