コモ湖が最高に気に入ってしまったボクは
ミネラルウォーターをおかわりしたり
デザートとコーヒーを頼んだりして
少しでも長く、湖水を見渡すチェアに座っていようとした。
Wさんもここがお気に入りのようすで
夕食以上に時間をかけて昼食を楽しんだわれわれは
午後5時になってようやく席を立った。
コモ湖からフランクフルトへは
昨夜決めたとおりのルートをたどった。
このあたりはスイス国境が大きく南に張り出していて
コモの街外れは、もうスイス領だ。
イタリア語が通用するティッチーノ県と呼ばれる地域で
入国スタンプにも“Suisse”や“Schweiz”ではなく
“Svizzera”と、イタリア語で国名が入っている。
|
ドイツ語圏の入国スタンプ。
ライン川に沿って[A5]を南下した突き当たりにある
ドイツとの国境・バーゼルのアウトバーン上のイミグレのもの。
|
|
|
フランス語圏の出国スタンプ。
イタリアとの国境・グラン・サンベルナール峠のもの。
国境を越えたアオスタ谷は、イタリアでありながらフランス語圏に属する地域。
|
|
|
イタリア語圏の入国スタンプ。
コモの隣町にあるイタリアとの国境・キアッソのもの。
スイス最南端の町は、ミラノからわずか40kmのところにある。
|
スイスに入ってすぐ
ルツェルンへ向かうアウトストラーダ[N2]に乗る。
少し走ってベリンゾーナで[N13]に乗り換えれば
“Passo del Saint Bernardino”(ベルナルディーノ峠)は近い。
“Rheinwaldhorn(ラインの森の鋭鋒)”と呼ばれる山の真横にある
ライン川の源流に位置する、2,000メートルを超す峠だ。
ベルナルディーノを越えれば
道はアルムの樅の林の中を下りはじめる。
山羊のアトリ(だったかな?)が遊んでいるまきばが見え
少し行くとオンジの夏の家やペーターの家が見えてくる。
ハイジが帰ってきたときと逆のコースを行くわけだ。
ハイジの泉で有名なマイエンフェルトをすぎれば間もなく
ライン川の対岸にリヒテンシュタインが見える。
このあたりは、大好きなヨーロッパの中でも
ボクが最も好きな地域だ。
|
コモからは、すぐにスイスに入り
ルガノ、ベリンゾーナを経て
ベルナルディーノ峠をトンネルで抜け
ライン川に沿ってクーアへ。
そこからアウトバーンで
ブレーゲンツを目指し
いったんオーストリアに入国の後
すぐにドイツに入る。
ボーデン湖北岸の一般道を走った後
アウトバーン[A81]、[A8]、[A5]を
乗り継ぎ、コモから7時間ほどで
フランクフルトに着いた。
|
なおも北上を続けると、[N13]はボーデン湖に突き当たる。
われわれは、ここを右に曲がり
ライン川を渡ってブレーゲンツに入った。
フォアアールベルク州の州都・ブレーゲンツは
ボーデン湖に臨む小さな町。
ウィーンやザルツブルクの町並みや歴史。
ケルンテンやシュタイアーマルクの山村風景と
悠々としたフレンドリーな人々。
そして、チロルやタウエルンの雄大で美しい自然景観。
どれもこれも、大好きな国・オーストリアの
大切な一要素ではあるが
住みたい国・オーストリアの中で
一番住みたい町はブレーゲンツなのだ。
|
ブレーゲンツから見たライン川と
ライン川源流地帯の山々。
川の右手(西)はスイス
山の向こうはイタリアだ。
|
ブレーゲンツを過ぎると
ほとんど意識しないまま国境を越え、ドイツに入る。
ここからボーデン湖の北岸を西に走る。
地図では湖岸の道だが
実際には湖岸の丘の上を走る部分が多い。
セリ科の白い花に囲まれた
地表のうねりに忠実な典型的なドイツの田舎道だ。
「ちょっとおなかがすいてきましたねぇ…」
この先にマクドナルドがあるのを知っているボクは
それとなくWさんに聞いた。
「そうですねぇ…。どこかで簡単に食って
フランクフルトまで行きましょう」
しばらく走って「あ、あそこでいいですか?」と
白々しく、林の中に突然姿を現わす“m”マークの看板を指差す。
いくらなんでも、いきなりマクドナルドに乗りつけて
「ここで夕食にしましょう」と言う勇気は
ボクにはなかったのだ。(^_^;
「ドライブスルーでもいいですよ」と
Wさんもその気になったので
ボクは“Macdrive”の矢印に従ってクルマを横付けした。
フィッシュマックとハンバーガーロイヤル・ミット・ケーゼをほおばり
“Mercedes Benz”という青いネオンを載せた巨大なビルを眺めながら
シュトゥットガルトの町を通りすぎると
1ヶ月にわたるドライブの、最後の区間は短かった。
|
初夏のドイツに欠かせない
シュパーゲル(アスパラガス)。
缶詰や瓶詰めは年中あるが
やはり生を茹でて食べるのが最高!
初夏には、街角の露店に
採れたてのが並ぶ。
日本でいうなら
朝掘りのタケノコ的感覚。
|
フランクフルトでの常宿、中央駅近くの
Hotel ARCADEにチェックインしたとき
日付は、帰りのチケットに記載された
7月6日に替わろうとしていた。
翌朝、Wさんを空港まで送った後、ホテルに戻って荷作りをした。
部屋のゴミ箱に捨てられたWさんの靴や衣類は
袋に入れて、街角の大きなゴミ箱に捨ててあげた。
まだまだ使えるものを捨てていくことで
日本人客に対するドイツ人従業員の印象を
悪くしたくはなかったのだ。
ホテルを出たボクはStadtmitteに向かい
Villeroy & Bochの植木鉢を探すため、Hauptwache界隈をぶらついた。
植木鉢を買い、ゲーテ広場に面したカフェでコーヒーを飲んだだけで
ツアー最後の昼は終わった。
|
フィレロイ・ウント・ボッホの植木鉢。
同社の食器シリーズの
代表的な絵柄が揃っており
大きさは大小2種類。
大きいほうが直径95mm・高さ85mm。
Villeroy & Bochの食器を売る店は
ヨーロッパの都会ならどこにでもあるが
植木鉢はなかなか手に入らない貴重品。
|
空港に向かい、[RENT-A-CAR RETURN →]の標識にしたがって
Hertz の返却専用パーキングに停めたとき
1ヶ月近くお世話になったモンデオの積算距離計は
17,630kmに達していた。
27日間で12,160kmに達する走りっぱなしの旅だった。
“もっとゆっくりすれば良いのに”
…という気持ちは常にあった。
急いで通過したために
その土地の魅力を見落としてしまったところも多いと思う。
でも、それができずに、ただひたすら走りまくるのが
今のボクには、最も自分らしい旅のように感じられるのだ。
==【完】==============================================
|
|