39 ほ〜っと安堵のオーストリア


ボクはオーストリアが大好きだ。
景色はきれいだし、人々はフレンドリー。
だけど、それだけだったら
ヨーロッパの他の国とそんなに変わらない。
かといって、音楽の都・ウィーンがあるからでも
モーツァルト生誕の地・ザルツブルクがあるからでもない。
ドナウはドイツにだってハンガリーにだって流れているし
アルプスは、フランス、スイス
イタリアあたりのほうがそれらしい。

カイザーゼンメルは南ドイツでも食べられるし
ウィンナーシュニッツェルは
今やヨーロッパの標準メニューになっている。
では、なぜこんなにオーストリアが好きになったのだろう?
はっきりとはわからない。でも、オーストリアは
ボクにとって世界一くつろげる国なのは確かだし
ボクはいつも、そこに住む人々の暮らしぶりを
自分のライフスタイルのお手本にしたいと思っている。


オーストリアに入ってからは
一般道[10]を西に向かう。
国境からウィーンまで約70km。
あたりはパルンドルファー・ヘイデ
(Parndorfer Heide)と呼ばれる
ブルゲンラント州最北部の平地。
当時、ウィーンからのアウトバーン[A4]は
ブリュックまでだったが
その後ハンガリー国境まで開通。
ハンガリー側でも建設が進められており
ウィーン〜ブダペスト間は
近未来にアウトバーンで結ばれる。


オーストリア最初の町はニッケルスドルフ(Nickelsdolf)。
ハンガリー最後の町・ヘジェシャロムからは
5kmくらいしか離れていないが
街並みはゆったりした感じになる。
だが、ニッケルスドルフにはまったく活気がない。
“壁”に突き刺さるような形のオーストリアの
そのまた最東端の町だから
かつては西ヨーロッパの窓として賑わっていたのに…。

街道に面して並んでいた電化製品や家庭雑貨を売る店も
半数は店じまいをし、残りの店もシャッターを下ろしている。
何軒かある旅行者相手のレストランは営業しているようだが
上の階の宿屋には泊まる客もいないのだろう
表のアプローチに停まっているクルマは少ない。

くねくねとニッケルスドルフの街中を抜けると
しばらく道は、ドナウ右岸の平原を走る。
ときおり、ミシュランの地図には載らないような
小さな街を通過する。
このあたりまで来ると、ハンガリーとの風景の違いに気がつく。
風景の構成要素は同じなのだが、配置が違う。

道端や平原にあった雑木林がなくなり
代って、これまで通ってきた街にはなかった
枝ぶりのいい街路樹が現われる。
平原にある畑や草地、水路や集落を区切る線にあいまいさがなくなり
景色に整然とした雰囲気が加わってくる。

国境から20kmちょっと走ると
平原の中に、突然高速道路の入り口が姿を現わす。
ウィーンへ通じるアウトバーン[A4]の乗り場だ。
オーストリアのアウトバーンは快適そのもの。
新しく開通した部分や補修を終えた区間の白っぽい路面は
スイスと並んで、フラットさでは世界一じゃないかと思う。

タールの多い日本の舗装みたいに目が詰まっていないから
タイヤのノイズはけっこう大きいが、排水はいいし
150km/hくらいで走っていてもほとんど揺れを感じない。
運転していて舗装の硬さが伝わってくる。そんな道なのである。
車線を区切る点線や路肩の実線は、蛍光塗料の入ったやまぶき色。
工事などで車線が狭くなっているところでは
同じく蛍光の赤でペイントされている。




高性能車でかっ飛ぶだけが
ヨーロピアンモータリングじゃない。
自転車でも引っ越し荷物でも
犬でも馬でも家でも船でも
何でもかんでも1台のセダンで牽いて
延々マイペースで走るのも
極めてヨーロッパ的な
クルマの使いかたといえる。
ちなみに、上の写真では
右側車線の前車はキャラバンを牽き
後ろのクルマは屋根に荷物を満載。
下の写真のトレーラーは
馬の運搬専用のもの。
蛍光やまぶき色の道路標示は
オーストリアの特徴だったが
最近、白に塗り替えられた部分が
目につくようになった。


運転者のマナーも、今ではドイツを抜いて世界一だろう。
みんなが自分の好きな速度で走りながら
常に自分より速い車のじゃまをしないように注意しながら走っている。
こんな当たり前のことが
最近ではドイツでさえ、守られていない光景を目にする。
“もう1台抜いてから走行車線に戻ろう”なんて考えていると
次の瞬間には、背後にぴったりくっついたクルマに
ブレーキを踏ませてしまう。

1台抜いて走行車線に戻り
前の車に追いついてから再び追い越し車線に入れば
その間の、わずかな時間に、急いでいる車を先に通すことができる。
どちらも自分の速度を落とさずに、である。
もちろん、そうしてもらって抜いていった車は
走行車線に隙間があれば、必ずそこに戻る。
自分より、もっと速い車がいるかもしれないからだ。

道路や運転者のマナーの良さに感心しつつ走っていると
間もなく最初のサービスエリアに到着した。
自分でガソリンを入れてから
金を払うためにスタンド横の売店に入る。
ヨーロッパの多くの国では、ガソリンスタンドはセルフサービスだ。
オヤジが出てきて入れてくれるのは
スペインの大半、イタリアと東欧の一部。
それに、ドイツとオーストリアのほんの一部だけだ。

売店に入ったボクは、ほっとした。
明るくて、合理的で、整然としていて清潔!
積み上げられたチョコレートにも並べられたミネラルウォーターにも
ほんの少しの乱れもない。
建物の内装、商品を並べる棚、値札など
客の目にふれるものすべてがトータルコーディネイトされている。
白地に緑を基調に、ブルーがアクセントを添えている。

もう少しこの雰囲気に浸っていたくなったボクは
売店の一角に設けられたカウンターでコーヒーとパンを注文した。
売り子のおばちゃんやお姉さんはみんな
見ず知らずの外国人に対しても
とても愛想が良く、礼儀正しかった。