XJ900の爽快チューン
2009年3月27日 - ダンパーロッド式(筒穴式)フロントフォークの構造と作動   
     
筒穴(つつあな)式というのはBS誌上で私が勝手に使った呼び名であり、ダンパーロッド式と呼ぶほうが一般には通りが良い。
インナーチューブ内側のバルブ。リバウンドスプリングの座面と一体で挿入後、スペーサーを介し折り曲げたチューブ端で固定。
フォークシリンダー(ダンパーロッド)上部(写真では右)にある小穴が伸び側オリフィス。下部の大きめの穴が圧側オリフィス。
 3月11日に書きはじめたフロントフォークセッティングの話に登場する(…というか、今回の話の主役である)カートリッジエミュレーターとは、そもそもどんなモノであるかをちゃんと説明していなかった。
 しかしそれを説明して理解してもらうためには、筒穴式フォークの構造と作動がわかっていないと話にならない。わかりやすく説明したウェブページがあれば、そこにリンクを張って済ませるのだが、なかなかコレといったページが見当たらない。
 昔、筒穴式ダンパーの模式図を描いた記憶があるので、探してみたところ、何と、あの“2ストローク・レーシングハンドブック”の P.155に出ているではないか。さっそくコイツを写真に撮り、修正/加筆したのが上の図である。で、今回は、まず、筒穴式ダンパーが、どのようにしてダンピングフォースを発生しているかを解説したい。
 筒穴式ダンパーで最も重要なパーツは、実はまったく注目されないバルブである。インナーチューブ先端の内側にある樹脂の輪っか(右上の

写真に白く写っている)だ。
 で、筒穴式ダンパー内のフォークオイルは、上の図のように、アウタ
ーチューブ/フォークシリンダー/インナーチューブ先端に囲まれた部屋(A)と、インナーチューブとフォ
ークシリンダーの間にあって両端をバルブとピストンリングで閉じられた部屋(B)に満たされている。
 圧縮時(アウターチューブにインナーチューブが入っていくとき)には、Aの容積が減り、Bの容積が増える。このとき、Aに入っていたオイルは、圧側オリフィスを通ってフ
ォークシリンダー内部へ逃げる。Bに入るオイルは、開いたバルブまたは伸び側オリフィスを通る。
 伸長時には、逆に、Aの容積が増え、Bの容積が減るから、フォークシリンダー内のオイルが圧側オリフ
ィスを通ってAに入る。ところが、Bから出るオイルは、バルブが閉じているため、穴径の小さな伸び側オリフィスから出ていくしかない。この、狭い穴(オリフィス)をオイルが通過するときの抵抗が、伸び側ダンピングフォースなのである。

 このように、インナーチューブ下端のバルブによって圧縮時と伸長時のオイルの流路を変え、伸長時にのみ大きなダンピングフォースを得るのが筒穴式ダンパーの特徴である。
 それなら、圧側オリフィスを小さくすれば、圧縮時にも大きなダンピングフォースが得られるのではないか…と、思われそうだが、それをすると、段差乗り越えなどの高速/大ストローク時の流量が足りず、フロントフォーク本来の“緩衝装置”としての働きが失われてしまう。
 こういう問題が生じるのは、オイルがオリフィスを通過するときの抵抗は、速度が高まるにつれて急激に大きくなるからである。筒穴式ダンパーの場合、低速作動時に充分なダンピングフォースが得られないのを承知で、高速作動時のオーバーダンピングを避ける設定にせざるを得ない理由がおわかりいただけよう。

 参考文献1(オイルダンパの設計手法に関する研究)
 参考文献2(1ページ目の図1と図2、4ページ目の図に注目)


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