フォークシリンダー下部の圧側オリフィスを8mm×6個に拡大した後、初の試乗メモには“動きやすい。ノイジーな感じ。バタつきやフラつきを感じるわけではないが、しっとり感がない。昨日の旋回性はどこへ行 ったのかと思うほど、旋回性が低下している。中速の回り込んだコーナ ーでスロットルを開けながら旋回半径をキープしようとすると、下品なライディングフォームになる。かといってスロットルを開けていくと自然にRが大きくなったり車体が起き上がったりするわけでもない。切り返しは、最初の“起こし”が決まらない。入り口ではステアリングに軽快感があり、旋回中に頑固さを感じることもないのに、起こそうとすると嫌がる感じ。このため切り返しが全然気持ちよくない…”とある。 試乗メモには、感じたことと思ったことは書いているが、気持ちは書いていない。そのときの気持ちをここに書くと“ガッカリ”である。落胆と同時に後悔もした。6mm×6個でやめときゃ良かった…と。 が、まあ、戻す気になればスペアのフォークシリンダーを6mm×6個に改造して放り込むだけで済むから、ここはもうちょっと8mm×6個で頑張 ってみようと気を取り直した。 もうちょっと頑張るためには、なぜ6mm×6個のときの旋回性が8mm×6個にすると悪化したかを、そのときの走りを思い起こしながら考え、次の一手を決めなければならぬ。 |
| どうやら、旋回性の悪化は、圧側オリフィスの拡大による、圧側ダンピングフォースの低下、それも、オリフィス拡大の目的である高速作動域ではなく、もう少し低い作動速度で、わずかにダンピングフォースが低下したのが原因のようである。 各種の資料を漁ってみると、ダンピングフォースと旋回性の直接的な関係について書かれたものは見当たらなかったが、クルマをも含む車両メーカーやサスペンションメーカーの広報資料には、スポーツ性を高める手法として、オリフィス(私の場合のリーク隙間に該当)作動域からバルブ作動域に移行した直後あたりの作動速度域におけるダンピングフ ォースを高める方向に設定した…などと書かれたものが多数あった。 これこそまさにカートリッジエミ ュレーターが狙った方向である。そうとわかれば頑張りがいがあるというもの。とりあえず、次の一手は、リリーフバルブのスプリングのレートを上げる方向に決定した。 私は今まで、荷重の増加がタイヤのグリップ力を上げることがあったり、そのグリップ力の増減によって旋回性に差が生じたり、動的なマシンの姿勢が旋回性を左右したり、ステアリングヘッドの動きやすさやマシンの重心位置が旋回性に大きな影響を与える…などのことがらは身をもって体験し“爽快チューン”においても、それらを考え、自分の好みに合わせて整備や改造をしてきた。 |
| しかし、正直に言って、特定作動速度域での圧側ダンピングフォースの高低が、これほど旋回性に大きな差を生じさせるなどとは思ってもみなかったし、もちろん、自分のマシンで体験したのは初めてだ。 オリフィス(私の場合のリーク隙間に該当)作動域からバルブ作動域に移行した直後あたり(中速作動域と言っていいだろう)の圧側ダンピングフォースが変化すると、どのようなことが起きるのか。残念ながらよくわからない。圧側減衰力を高めてタイヤを路面に押しつける…とい った記述を見かけたことがあるが、それでは説明になっていない。 よくわからないと言いつつ無理やり話を進めると、圧側ダンピングフ ォースが適切でない(筒穴式ダンパ ーでは弱すぎるのが通例)場合、前輪の舵角によって生じる旋回力が何らかの原因で弱められており、ダンピングフォースを高めることでその原因が取り除かれ、弱められていた旋回力が復元する…と考えてみた。 で、その“原因”は、タイヤが適度な摩擦状態を維持できる力の範囲を超えた高(あるいは低)荷重状態が、瞬間的かつ繰り返し与えられることにより、一定時間内の摩擦力の平均値が低いほうにズレるというような現象ではないだろうか。 適度なダンピングフォースとは、ひょっとすると、タイヤと車体の間にある、もうひとつのタイヤのようなものかもしれない。 |