XJ900の爽快チューン
2009年9月29日 - カートリッジエミュレーターのセッティングが完成
     
 遂にというか、やっとというか、ようやくというか、ともかく、カートリッジエミュレーターを用いたフロントフォークのダンパーセッティングが完成した。明後日発売のバイカーズステーションには、その直前のところまでしか書いていない。
 つまり、次号の原稿を書いている段階では“完成の域”に達していただけだったのが、その後の1週間で
“完成”したというわけである。
 ダンパーに限らず、セッティングというのは、完成の域に達してから完成までの道のりが大変なはずなのに、わずか1週間で済んだのは、カ
ートリッジエミュレーターのオリフ
ィスとバルブの役割分担について、体感をもとにグラフを描き、図上であれこれ考えてみた効果が大きい。

 カートリッジエミュレーターの場合、低速作動時はオリフィス、高速作動時はリリーフバルブの隙間(その開き具合を決めるのがバルブスプリング)の働きにより、それぞれダンピングフォースを発生している。
 では中速はどうなっているかというと、これがなかなか難しい。
 リリーフバルブスプリングのプリロードを増せば中速作動域のダンピングが強まる…と、一般に言われている。しかしそれは、ただリリーフバルブの開弁圧が高まった結果にすぎず、それによって中速作動域のダンピングにどのような変化が生じるのかを考えないと泥沼にはまる。
 下の図に点線で示したのがオリフ
ィス、実線がリリーフバルブが発生するダンピングフォースである。

 理論的根拠があるわけではなく、ただ体感をもとに描いてみただけの図なので、注意していただきたい。
 で、仮にこのようにオリフィスとリリーフバルブのそれぞれの作動速度−ダンピングフォース曲線が交差しているとして、交点よりも左(低速)側ではオリフィスのみが効き、右(高速)側ではリリーフバルブのみが効くという点に注意が必要だ。
 それまでダンピングフォースを発生していたオリフィスには、リリーフバルブが開いた途端にオイルが流れなくなり、あとはリリーフバルブの隙間がダンピングフォースを発生するようになる。キャブレターのパイロット系/メイン系の関係とは違い、両者の効果は、重なるのではなく切り替わるのである。
最後の1週間にトライしたセットのメモ。スプリングの色(レート識別)とプリロード/オリフィスをふさぐワッシャの外径である。
速度の上昇に伴って立ち上がるオリフィスのダンピングフォースを、どの高さ/速度で切り取るかがプリロードの役目である。
 つまり、リリーフバルブスプリングのプリロードを増やすということは、リリーフバルブの開弁圧を高め開きはじめる速度を高速側に寄せ、オリフィスの効果範囲を高速側に広げるということなのである。
 だから、プリロードを増やすだけで中速作動域のダンピングを強めようとすると、狙いよりも高速に寄っ
た領域でダンピングが強まる…とい
ったことになりかねない。右上の図からも明らかなように、両者の交点の位置を真上に上げるためには、プリロードを増やすのと合わせてオリフィスの径を絞る必要がある。
 このことに気づいた後、私のダンパーセッティングは、急速に完成に向かった。ばねレートとプリロードしか調整できない市販状態のカートリッジエミュレーターでは、ここまで細かなセッティングはできない。
 圧側のダンピングしかいじれないカートリッジエミュレーターでは、伸び側の調整はフォークオイル粘度に頼らざるをえないから、圧側の低速作動域をフォークオイルで調整するわけにはいかない。
 ここに不満がある場合は、以前私がしたような花弁型ワッシャを挟んだり、今やっているようなオリフィス径の拡大〜ワッシャによる規制のように、オリフィス径を増減させるための何らかの工夫が必要だろう。

 で、カートリッジエミュレーターのセッティングの順序を…
 1)伸び側ダンピングが最適になるフォークオイル粘度を決める。
 2)低速作動時にのみ着目してオリフィス径を仮決定する。
 3)弱〜強の中間レートのバルブスプリングを用い、高速作動時の特性を無視してプリロードを仮決定。
 4)プリロードとオリフィス径を増減させ、中速域のダンピング特性を緻密にセッティングする。
φ3mmに拡大したオリフィスをそのままにした状態(左)と、外径12.8mmのワッシャでふさいだところ。現在は右の仕様である。
 5)上に書いた中速域のセッティングと合わせて高速作動時のテストをし、それをもとにバネレートの強/弱を試し、最適のものを選ぶ。
 …とプログラム化し、それに従ってセッティングを進めた。
 気をつけなければならないのは、中速作動域(リリーフバルブにかかる初期荷重)を先に決めてから高速作動域(ばねレート)を決めるため
小径プレートを(左)を使っていたときは、これの下に花弁型ワッシャを入れ、オリフィスの流量不足を補っていた。右が現状。
には、異なるばねレートのスプリングにどれだけプリロードをかければ初期荷重を同じにできるかがわかっていないとダメということだ。
 そのためには、4種類のスプリングの各種寸法をノギスで実測し、計算によってばねレートを求めておかなければならない。この計算には、フォークスプリングのレートを求めたのと同じ計算式を使用した。
 1)〜5)の手順と、その後、初期荷重を変えずにばねレートを変更したテストの結果、最終的には上の写真のように、リリーフバルブプレートに開いたφ3mmのオリフィス(もとはφ1.5mm程度)を、外径12.8mmのワッシャによって半分程度ふさいだうえで、最もばねレートが低いスプリングに4回転(ネジのピッチは約0.8mmだから3.2mm)のプリロードをかけたところに落ち着いた。
 このサイズのフォークに適合したエミュレーターの推奨セットと比べると、オリフィス径が少々大きく、

ばねレートは推奨品の1.8kg/mmに対して0.5kg/mmと非常に低い。その代わり、2回転以上かけるなと書かれているプリロードはが4回転もかか
っている。推奨セットと比べ、中速域のみ同じくらいのダンピングで、低速は少々、そして高速作動域は大幅に弱まる…といった傾向だ。
 これほど大きく違うのは、もともとアメリカのスーパーバイクレースをターゲットに開発されたカートリ
ッジエミュレーターを、日本の公道で、しかも乗り心地重視でセッティングしたからだろう。
 ここまでやってきて、面白かったというより不思議だったのは、ばねレートの変更による乗車フィーリングの違いだ。最終的に最弱のスプリングに決めたとはいえ、セカンドベストは最強で、それよりも中間レートのほうが良くなかったのだ。
 これについては、まだ言葉にできていないので、もう少々考えをまとめて、後日に報告したい。今、何と

なく感じているのは、フロントフォ
ークとタイヤとの仕事の関係だ。
 タイヤとフォークには似たところがあって、どちらも衝撃の吸収と緩和をしている。で、タイヤとフォークのどちらかが、もう一方に仕事をするように促している状態がベストで、どちらも仕事をしなかったり、両方が互いに相手に負けじと仕事をしている状態ではうまくいかないのではないかということである。
 タイヤがフォークにうまく仕事をさせるポイントと、フォークがタイヤにうまく仕事をさせるポイント。この2つのポイントが一致するタイヤもあれば、一致しないタイヤもあるのではないか。どうやらピレリ・スポーツデーモンは後者のようである。2つのポイントの間で、フォークからタイヤへ、そしてタイヤからフォークへ、うまく仕事の受け渡しができるようにしてやるのが、今よりハイレベルなフロントフォークセ
ッティングではないかと思う。


<  ひとつ前 ・ 目次 ・ 最新 ・ ひとつ先  >
 
ARCHIVESARCHIVES TUNINGTUNING DATABASEDATABASE HOMEHOME Network RESOURCENetwork RESOURCE    DIARY