XJ900の爽快チューン
2011年10月2日 - ヤマハWGP参戦50周年記念メモリアルラン(当日編)   
     
店開きの直後、全車に10Lずつガソリンを入れた。平野さんが持っている網つきファンネルは、たぶん24年前と同じ物だ。
OWF9のスクリーン内側に貼ったノリックの写真。クリアの粘着シートはショーエイさんでいただいた。ありがとうございます。
多くのお客さんに向かってポーズをとる姿も慣れたもの。こういう微笑ましい光景を特等席で見られるのはメカニックの役得だ。
 メモランの本番は、125、Moto2、MotoGPの順に行われるウォームアップセッションの後、すぐに始まる。公式タイムテーブルは10:05〜10:45が“YAMAHA 50th”となっている。
 一方、メモランスケジュール・メカニック版では、ホテル発7時、もてぎ入り8時、最終会議9時…とな
っていて、朝から割と忙しい。
 昨日までと違うのは、パドック内にいるお客さんの数だ。関連メーカ
ーのゲストの方だったり、パドックパスを買った観客の方だったり、いろんな人がテントを覗きにくる。
 店開きの直後に、各車の給油とタイヤの空気圧調整を済ませ、9時からの会議が終わったあとは、ツナギ姿のライダーを脇に、テント内での最後のエンジンウォームアップだ。

 時ならぬ2ストロークの排気音を聞きつけて、多くのお客さんがテントのまわりに集まってくる。ウォームアップが終われば、いよいよコースインである。エンジンは止め、メカニックがマシンを押して、ライダ
ーといっしょに、歩いてコントロールライン脇のゲートに向かう。
 このあたりの細かな手順は、リハ
ーサルのときとは違うので、すべて進行役の佐々木さんの指示に従う。ゲート脇で少々待ち時間があり、マシンに跨がって待機していると、プレスやチーム関係者が集まってきたので、記念写真を撮ってもらう。
 MotoGPクラスのウォームアップセ
ッション後のコース確認が済んだところで、オフィシャルの指示に従ってマシンを押してコースに入れる。

 スタート位置は、リハーサルのあとで2×2の千鳥配置に変更されていた。先頭のOW20の右後方にOW81、その左後方に我がOWF9、さらにその右後方にOWL5という並びである。
 エンジン始動のタイミングは、とくに決まっておらず、選手紹介の間にエンジンをかけていても大丈夫とのことだったので、若手の2人のメカニック(笑)は、スタート位置に着く前のコース上で押しがけをした。
 ここはやはり、MotoGP化以後に導入されたスターターではなく、かつての押しがけでカッコよく決めたいと思っていた私は、もてぎに来ると決まってから、 密かにXJ900で練習を重ねていたのだった(笑)。
「ここで失敗したら、末代まで恥をさらすことになりますよ」と、北川
「メカニックが一番エラそうにしてる…」とは、この写真を撮ったRACERSの加藤編集長の言葉。うむ、確かにそう見える(笑)。いよいよスタート。そういえば、阿部さんは押しがけの経験もあまりなかったはずだが、元本職のライダー並みの上手さだった。
さんに注意されていたが、注意と禁止は違う(笑)。が、まあ、とにかく一発でかかってほっとした(笑)。
 スタート位置に整列した後、水温が70度に達するまでブリッピングを続ける私の横に阿部さんが立ち、先頭の本橋さんから順に選手紹介。冷却水量が多いおかげで、最初の暖機には時間がかかる代わり、冷めにくく、ここではすぐに70度に達したので、いったんエンジンを停めた。
 選手紹介が終わると、先頭の本橋さんから順にスタートだ。千明さんがマシンを押し、エンジン始動。だが、OW81やOWF9とは比較にならないくらい低回転時の発生トルクが小さいOW20は、そのままスロットルを開けただけでは加速していかない。
 一瞬の間をおいて、すさまじい半

クラの音が聞こえ、もうもうと煙を吐きながら1コーナーめがけて加速していった。本橋さんカッコええ!
 続いてシャケさん。ツナギを着てマシンに跨がるだけで、これほどサマになる人も珍しい。平野さんのプ
ッシュで危なげなくスタートし、1コーナーめがけて快走していった。
 いよいよ自分の番だ。練習やリハ
ーサルのときと同じく、OWF9のテールカウルを両手で支えるようにして45度前傾姿勢をとり、佐々木さんの合図とともに、地面を蹴る足に力を込める。 1歩、2歩、3歩…中腰の阿部さんがマシンに体重をかけるのを見はからって、両手を前に突き出すように、グッとマシンを押し出す。クラッチミートと同時に火が入ったのを確認し、コースサイドのグリー

ンに駆け寄りつつ阿部さんの姿を目で追い、OWF9の音に耳を澄ませる。
 その場で中野さんのスタートを見物したあと、急ぎ足でコースの反対側へ。打ち合わせでは、このあと、コース上で編隊を組み、4台一団となってホームストレッチに戻ってくることになっていた。だが、そんなことが、たった1回のリハーサルでうまくできるわけがない(笑)。もっと、うんとペースを落とせばできたかもしれないが、それではただのパレードランになってしまう。
 だから、4人のライダーが、それぞれ自分なりに“こうしたい”と思い、それを披露した結果が見られたのは、むしろ良かったと思う。このあたりの“ユルさ”もまた、ヤマハの持ち味のひとつかもしれない。
走行が終わり、サーキットのアナウンサーにインタビューを受ける本橋さん。紳士的かつユーモアのある話しっぷりは昔ながら。FIMの役員から、WGP参戦50周年記念を表彰する楯を授かる北川さんは、WGP50th活動事務局長でもあった。
 2周目、コース上でチェッカーを振るのは北川さんの担当である。もてぎ入りする前に、家でこっそり練習していたかどうかは聞き忘れたが(笑)、なかなか堂に入ったフラッグマーシャルっぷりだった。
 この周のシャケさんはますますカ
ッコよく、1コーナーへのブレーキングポイントもかなり奥だった。昨日の「周回ごとにブレーキングポイントがどんどん奥になっていきよるねん。わははっ(笑)」という言葉どおり、思う存分走りを楽しまれたようで、見ていても気持ちよかった。
 阿部さんも、フロントカウルのスクリーン内側に貼ったノリックの写真といっしょのメモリアルランを楽しまれたと思う。そういえば今回、スタート前のライダーに向かって最

後にかけた言葉が「ノリといっしょに楽しんできてね」だった。
 チェッカーを受けた後、4人のライダーは、コースサイドのお客さんに手を振りながらコースを1周し、ゆっくりとホームストレッチに戻ってきた。今度は、スタート時とは逆に、ストレートのピット側にマシンを着ける。三角スタンドを通し、写真写りを考えて斜めに向きを揃えたメカニックは、一歩下がって(実際には10歩ほど離れて)ライダーへのインタビューが終わるのを待つ。
 私はこの時間が一番好きだ。勝ったとか完走できたとか、今回の場合はライダーとお客さんに楽しんでもらえたとか、そういった結果に対して、少しではあっても自分が関われたことを誇りに思える瞬間だから。

 本橋さんを筆頭とする4人のライダーへのインタビューに続いて、コ
ース上で表彰式が行われた。 FIMによる、 ヤマハのWGP参戦50周年の表彰だ。そして最後に、4台のマシンのまわりに関係者が集まって記念撮影をし、予定されていたメモランのスケジュールは、すべて終了した。
 メモランスタッフとしての私の仕事は、たった4日間だったが、サーキットでの仕事を、これほど楽しめたのは久しぶりのことである。
        ●
 メモランダイアリーの最後に、素晴らしい思いつきで私にこのチャンスをくださった北川さんと、異分子を快く受け入れてくださったメモランチームの方々にお礼を申し上げます。ありがとうございました。
あとでプレスルームに行き、同業者に聞いたら「取材してるときよりもずっと嬉しそう」と言われた。痛いところを突くヤツだ(笑)。


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