XJ900の爽快チューン
2012年11月16日 - 総減速比ロング化で外径が増すギアとケースのクリアランスを探る
     
 8月30日の試乗のあと、 バイカーズステーション編集長・佐藤さんに
“急務はハイギアード化と思う”と同誌11月号掲載の“試乗後記”に書かれるまでもなく、総減速比のロング化(ハイギアード化)は、乗りはじめて以来ずっと、できるものならやりたい…と考え続けていた。
 いや、このマシンに限らず、1985
〜90年ごろ、XJ750Eに乗っていたときにも“もうちょっとロングなほうがいいよなあ…”といった程度の漠然とした希望は持っていた。
 前作XS/GX750シリーズがあまりにもロングだったのを反省したのか、

ライバル車に信号ダッシュで負けたくないと考えたのか、欧米の雑誌がよくやる0→400mや0→100km/h加速の実走テストで良好な数値を得たか
ったのか、 いずれにしてもXJ650/
750/900系で“加速”重視に振ったのは明らかで、定常走行では、あと2段くらいギアがあってもいい…と思うほどショート(ローギアード)
な総減速比設定なのである。
 ロング化した場合、例えば、現状でトップギア100km/hだと4000rpm回
っているのを、もっと低回転にすることができるから、平和でスムーズな巡航が可能だろうし、燃費の改善

にも効果がありそうだ。
 峠道などを走るときでも、飛ばさなければ、例えば京都の花背峠を、南向きなら、トップギアのまま登って下りるといったことが普通にできてしまう(北向きの登りは、さすがに無理)し、ワインディングを気持ちよく攻めているときのギアは3〜
5速で、2速や1速を使うことはほとんどない…といった状況を、ロング化により、もう少し下のギアまで使って“操作する楽しみ”を味わえるものにしたいという気もする。
 で、仮にロング化するとしたら、どこをどういじるのか。XJ650/750
XJ650/750/900の減速機構。赤く着色したギアセットが、ミッションからミドルドライブシャフトへの動力伝達用である。左の写真で赤く着色したギアセットの被動側ギアは、メカニカルダンパーを内蔵する筒の外周に圧入〜溶接されている。
900系エンジンは、 1次減速から5次減速まで、すべてギアである。その中で唯一なんとかなりそうなのが、上の写真に赤で着色したギアセットではないか…というあたりまでは、20年以上前、XJ750Eの大改造にあた
って、すでに考えていた。しかし、XJ750Eの大改造そのものが諸般の事情により挫折したので、ロング化の構想もまた立ち消えになった。
 そして、 20年以上経ってXJ900を入手し、再びロング化を考えるようになり、2007年秋〜2008年春のエンジンオーバーホールに合わせて情報収集を再開したところ、XJ900Sディ

バージョンが、まさにここのギアセ
ットの歯数を変更してロング化していることがわかった。XJ650/750/
900系が37-48(対米輸出仕様のマキシム系は36-49)なのに対し、 ディバージョンは38-46なのである。
 ディバージョンのエンジンは、気筒前傾角が大きいため、まったくの新設計のように思われるが、実はXJ
650/750/900系の シリンダー前傾角を大きくしたような物で、ミッシ
ョンやクラッチには互換性がある。だから、当然このギアセットも使えるはず…と、喜び勇んでディバージ
ョンのギアセットを購入した。

 ところが、車体まわりがまったく異なるディバージョンは、ワイドになったリアタイヤを避けるべく、XJ
650/750/900系よりも 車体外側にドライブシャフトをズラしており、その分、ミドルドライブ軸が長くなり、上の写真のギアを貫通する筒状部分が伸びており、残念ながら、これを XJ900のクランクケースに組み込むのは無理だと判明した。
 せっかく買ったギアだから、何とかこれを使えないか…と、ディバージョンの筒を切り落として XJ900の筒を溶接する案や、圧入の後に溶接された筒とギアを分割し、入れ替え
発掘したエンジン。ガレージの屋根が破損し、雨ざらしになったまま20年近く経つ。手前は750Eのケースと900のクランク。
1基は“29R”の刻印を持つ、レア物のXJ750EII用。エンジン形式が異なるのは、EIIのほうがストロークが0.1mm長いため。
どう見ても再生は無理なので、観察しやすくするために、サンダーで切ったりハンマーで割ったりした。だが、まだ捨てない(笑)。
る案などを検討したものの、強度、精度、コストなどに問題があり、両案とも断念せざるをえなかった。
 こうして、2007〜08年のエンジンオーバーホール後も、 STDのままの総減速比で走り続けていたところ、今年になって強面1号さんがウチに遊びに来る機会があり、そのときにギアのワンオフ製作の話を聞き、再びロング化の虫が騒ぎ出した。
 聞くところによると、彼の知り合いの知りあい?がギアメーカーの技術者で、その人に頼めば、ワンオフの設計から製作までやってくれるらしい。ものは試しに…と、強面1号

さんにディバージョンのギアセットを預け、その技術者の方に見てもら
ったところ、純正部品のように筒にギアを圧入して溶接する代わりに、筒もギアも一体で削り出したほうがいい…との所見をいただいた。
 彼の勤務先は、自動車メーカーにギアを納入している会社らしく、その専門家が設計し、その工場で作るのだから、品質に関しての心配は無用…とは、強面1号さんの見解。
 そこまでわかり、ワンオフによるロング化にメドがついたところで、残る問題は2つ。ひとつは、ワンオフならディバージョンと同一の歯数

(減速比)である必要がないのはいいが、では、どんな何歯にすればいいのか(どれくらいの減速比にすればいいのか)…という問題。
 もうひとつは、駆動側ギアの外径が大きく、被動側が小さくなるロング化の場合、大きくなった駆動側ギアがクランクケースに干渉するのではないか…という問題である。
 そこで、ギア屋さんと具体的な相談をする前に、駆動側ギアとクランクケースの間に、どれくらいの隙間があるのかを探るため、庭の隅で土に還りかけていたエンジンを発掘〜解体し、観察したのである。
ミッションのメイン軸上右端にある3次減速駆動ギア。これとケースのクリアランスを確認するのが発掘〜解体の目的。ケース側はシフトフォークガイドバーを支持するボス部で、バーの中を通してケース左側にオイルを送る通路が見える。ボスの基部には、ギアが干渉しないようにする“逃げ”がある。ここをさらに削るとしても、安全なのはせいぜい1mmどまりだろう。


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