「濡れたペットの乾燥に使用しない
でください」
「耳に入れないでください」
「ミラーに映っている物体は、見た
感じよりも近くにあります」
「熱いので火傷にご注意ください」
上から順に、電子レンジ、綿棒、
クルマのドアミラー、ファーストフ
ードの店のコーヒーカップに書かれ
た注意書きだ。アメリカでは、この
テの、煩わしく、ときには消費者を
バカにしているんじゃないかと思わ
せる注意書き(またはアナウンス)
を見聞きすることが多い。
PL法のせいだ。いや、PL法が
悪いのではなく、司法制度に問題が
あるのだろう。電子レンジに入れて
濡れたペットを乾かそうとするよう
な者が「ペットが死んだのは、取り
扱い説明書に『濡れたペットの乾燥
に使ってはいけない』と書かなかっ
た電子レンジメーカーの責任だ」と
主張し、それが認められてしまう。
電子レンジでペットを死なせたユ
ーザー、綿棒で耳の中に傷をつけた
消費者、ミラーに映った後続車が遠
いと思い込んで進路変更をして接触
|
事故を起こしたドライバー、コーヒ
ーで火傷をした客などが、製造者や
販売者を相手に損害賠償を請求する
のが『消費者の権利』としてまかり
通るようでは、物の製造や販売など
恐くてできやしない。
勢い、どのメーカーも、最初に書
いたような注意を、製品や取り扱い
説明書に表示せざるをえなくなる。
「濡れたペットの乾燥に使用しない
でください」と表示してはじめて、
電子レンジメーカーは、ペットの死
に対する責任を逃れることができる
というわけだ。
綿棒を買う者の何割が耳の掃除に
使うか知らないが、けっこう高率な
のは間違いないだろう。彼らに対し
て「耳に入れないでください」と表
示した綿棒を売らざるをえないのが
アメリカの製造者であり販売者であ
る。「そのうち『ボンネットを開け
ないでください』とか『道路で運転
しないでください』と表示されたク
ルマが登場するんじゃないか……」
といった冗談が、冗談で済まないと
ころが『病める訴靱大国』アメリカ
の現状なのだ。
|
PL法元年を迎えた日本は、幸い
まだ『病んで』はいない。PL法の
内容も司法制度も、アメリカのそれ
とは違う。しかし、それでも、PL
法を逆手にとって企業や商店を脅か
す『ごろつき』がまかり通る可能性
は高くなった。
こうした状況になって恐いのは、
消費者を恐れるあまり、臆病になっ
た製造者や販売者が『注意書き』と
いう名のエクスキューズを連発する
ことと、逆に傲慢になった製造者や
販売者が、そのテのエクスキューズ
でごまかした不完全な製品を世に出
すことだ。
柄で指を挟むかもしれないプライ
ヤーを、何とか指を挟まないように
改良するのではなく、ただ『強く握
ってはいけません』という注意書き
を添付するだけで済ませてしまった
のでは本末転倒。何のための消費者
保護かわからない。『ごろつき』を
許さず、製造者や販売者の怠慢を監
視しながら、不完全とはいえようや
くできた消費者保護のための法律が
正しく運用されるように見守ってい
きたいものである。
|