ヨーロッパでTVを見ていると、
ハンドツールのセットや園芸用品、
ハウスキーピングの道具や材料など
のコマーシャルをよく見かける。確
かに、それらのCFに登場する商品
は、安価であることが第一条件で、
その道のプロの厳しい要求を満たす
ものではないが、そういったCFが
流れるというのは、プロでない一般
消費者の中に、それだけ大きな需要
があるということだ。
ホームセンターの工具売り場を覗
くと、ハンドツールの品ぞろえこそ
日本のそれとあまり変わらないもの
の、ドリルやグラインダーなどの電
動工具はもちろん、小型の旋盤やフ
ライス盤、溶接機などが置いてある
のに驚かされる。バルブリフターや
タコ棒といったかなり専門的な工具
を置いている店も少なくない。
こうした道具を使うには、もちろ
ん、それなりの知識が必要なのは言
うまでもないが、それよりも、そう
した道具を使って何かをしたり、何
かができるようになるために必要な
時間的余裕、さらには、そういった
ことを自分でしようという気になる
精神的余裕などを、多くの人々が持
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っているということに注意を払う必
要がある。
壊れた物を自分で直したり、自分
が使う物を自分でメンテナンスした
からといって、必ずしも買い替えた
り人にメンテナンスを頼んだりした
場合よりも安上がりとは限らない。
むしろ、金銭的には高くつくことも
稀ではない。それでも、クルマの修
理、庭の手入れ、壁の塗り替えなど
を人々が自分の手でするのは、それ
らの行為が、彼らの余暇の過ごしか
たのひとつとして根づいているから
に他ならない。
先ほど『それなりの知識が必要』
と書いたが、書店に行くと、『それ
なり』どころか、プロ顔負けの専門
的な内容の『入門書』のたぐいが数
多く並んでいる。冬の長い夜にそれ
らの本を読み、夏の長い夕方に自分
の手で何かをする……。これこそヨ
ーロピアンウェイ・オブ・ライフの
ひとつの典型なのである。
彼らと話していると、よく、『今
年の夏は、どこそこに1ヶ月も旅行
したから、クルマの買い替えはしば
らくお預けだ。だから大切に乗らな
くちゃ』とか『昨日はいい天気だっ
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たから、息子といっしょに家の壁を
塗り替えたんだ』などという話を聞
く。そんな話をしているときの彼ら
は、実にうれしそうで、そういった
ことを楽しんでいることがわかる。
忙しい日本人の場合、何でもかん
でも人に任せ、対価を支払うことで
楽をするのが普通だったが、余暇時
間の拡大とともに、人に任せていた
作業を自分でする機会が増えるので
はないだろうか。
趣味という語感とはちょっと違っ
た、大人の余暇の過ごしかたのひと
つとして、クルマいじりや庭の手入
れ、家の補修などを『自分でする』
ということを、もっともっと多くの
人が経験してほしい。『何を持って
いるか』ではなく、『何をどうする
か』に、『どこに行くか』ではなく
『どこで何をするか』に価値を見出
すのが、ヨーロッパ的なゆとりある
生活への第一歩だという気がする。
文明開化の時代から高度経済成長
時代を経て、経済面に限って世界の
先進国の仲間入りをしたニッポンに
とって、バブルがはじけた今こそ、
本当の文明開化のチャンスなのでは
ないだろうか。
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