今年はマシンがおもしろく、マシンがレースを楽しくする
(ライディングスポーツ 96年7月号)

                       
 4月号に書いたように、今年のGP500マシン
はおもしろい。NSR500Vとelf500とい
う2機種が新しく加わっただけでなく、ヤマハとア
プリリアも、大がかりな改良を施したマシンを投入
してきたからだ。ヤマハとアプリリアは250にも
大幅な改良を加え、さらにアプリリアは125のエ
ンジンをも一新するという力の入れようだ。   
 こうした状況の下で、岡田は開幕戦以来ずっと期
待に違わぬ走りを見せているし、インドネシアGP
の原田と日本GPの阿部の優勝にはマシンの戦闘力
アップが大きな貢献をしている。日本GPではあわ
やポールポジションかというタイムを叩き出したロ
ンボニの走りも、RSV400の改良によるところ
が大きい。125ではアプリリアが開幕から3戦全
勝の勢いを見せ、ホンダ勢を慌てさせている。  
 だが、新しいマシンは、必ずしも好結果を生むと
は限らない。特異なエンジン構成によるキャブレー
ションに問題を抱えたelf500に乗るボルハと
ボサート(フランス系スイス人だがドイツ語圏に住
む彼は、ボシャールではなくボサートと呼んでほし
いそうだ)はマシンのセットアップに追われてタイ
ムが伸びないし、日本GPではアプリリアの125
に乗る坂田とエッテルが、トップグループを走りな
がらマシントラブルでリタイアしている。    
 優勝2回、2位1回でランキングトップを快走中
のビアッジにしても、フリー走行や予選では頻発す
るマシントラブル(ほとんどが焼き付き)に悩まさ
れており、アプリリアのワークスマシンに乗るビア
ッジ以外のライダーも、たび重なる焼き付きに見舞
われている。今後予想される原田との激しい首位攻
防戦の途中で、ビアッジのマシンに一度もトラブル
が起きないとは考えにくい。          
 このように、開幕から3戦を見た限り、今年は例
年以上に、マシンがレースのゆくえを大きく左右す
るのではないかという気がする。ライダーだけでな
くメカニックやエンジニアにとっても、今年は、息
の抜けない、辛く長いシーズンになりそうだ。メカ
ニックからこの世界に入ったボクにとって、こうし
た状況は、興味百倍。どうなってるんだろう? ど
こが変わったんだろう? と、覗き込んだり聞きま
くったり……。                
 うれしかったのは、日本GPのときのHRCの対
応だ。ピットガレージのシャッターを全開にして、
その中でドゥーハンやクリビエのNSR500はも
ちろん、岡田と伊藤のNSR500Vさえも! カ
ウリングを外していたのだ。まわりにいたスタッフ
に聞くと、外(つまりピットロード上)からなら写
真撮影もOKだという。            
 これだけオープンにされると、逆に『何がなんで
も覗いてやろう……』という闘志が萎えてしまう。
まさかそれを狙ってでのことではあるまいが、レプ
ソルホンダのメカニックたちは、衆人監視の下でシ
リンダーヘッドをめくり、シリンダーを外し、ピス
トンピンを抜き、クラッチを分解していた。   
 elf500を走らせるROCなどはもっと開け
っぴろげで、クランクケースの分解・組み立てのよ
うすをずっと観察することができた。中での写真撮
影は断られたが、上下2気筒のクランク室がつなが
っているようす(クランクウェブは2気筒で3枚)
や、Vバンク間の狭いスペースに4連装するために
デロルトのキャブレターに施した加工のようすなど
を、思う存分観察できた。           
 ヤマハも例年よりはオープンで、全面新設計(基
本レイアウトは同じ)となったYZR500のエン
ジンを、かなりの時間眺めることができた。   
 残るはアプリリア。これがどうも、最近ガードが
固い。写真を撮らなければピットガレージに入って
もいいとは言われているが、ボクが見たいような作
業をしているときは入れてくれないのだ。が、まだ
まだシーズンは長い。何度かチャレンジして、いず
れはあの速さと脆さの秘密をあばいてやるぞ。  
                       


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