24 オーストリア的なトリエステ


トリエステまで来ると
同じイタリアでも、建物の様式や自然の景観に変化がある。
ハプスブルク家の支配が及んだこの街には
オーストリア的特徴を備えた建築物が多い。
イタリアのようなくすんだ灰色ではなく、ベージュやカラシ色
ときにはペパーミントグリーンやピンクに塗られた建物が散在し
窓は大きくなり、アーチ形のものも見られるようになる。

街路はイタリアより広く、壁から突き出た看板は少ない。
その代り、大きなショウウィンドウからは
アコーデオンのようにテントが張り出している
道が広いのに、歩道上にカフェはほとんどなく
中庭や公園に面して設けられている。

在りし日のハプスブルク帝国に想いを馳せながら
アクセスするための電話を求めて駅を探していると、港に出た。
港の入り口に、規模は小さいが
シンメトリックでおごそかな広場を発見した。


あとで写真を見ると
これはこれで
しっかりイタリア的だった。
イタリアを走りぬけて
ここまで来たときは
今まで見てきた街並みとは
おおいに雰囲気が違い
オーストリア的だと感じたのだが…。


1辺を海岸通りに接した100×100メートルくらいの方形の広場には
海岸通りに面して2本のポールが立てられ
特大のイタリア国旗と
トリエステ市旗(だと思う)がはためいている。
日曜の昼下がりだからか、広場はひっそりと静まりかえっていた。

広場を取り囲む建物は
国旗がなければ
ウィーンのどこかの建物かと思うほどオーストリア的。
左手奥にカフェ、右手奥にホテルのレストランが
それぞれテラスを出している。
そろそろ昼食にしようと考えたボクは
真っ白のパラソルを並べたカフェのほうに向かった。
が、食べ物はチョコレートケーキしかなかった。
まあいい。ここんとこ毎日、いいものを食べすぎてたからなぁ…。


墺・伊混合といった雰囲気の
広場に面したカフェテラス。
ケーキとコーヒーと
そして何より、注文の品を
ちっちゃなトレイに乗っけてくるのが
オーストリア的。
小さなボトルに入った
S.PELLEGRINOと
グラスにレモンを入れるのは
このうえなくイタリア的。


ケーキを食べていると、急に
自動車進入禁止のはずの広場に何台ものクルマが入ってきて
一斉にクラクションを鳴らした。
驚いて振り返ると、正装した男女が集まっている。
広場の近くで行われていた結婚式が終わり
これから新婚旅行に出発するカップルを見送るようだ。

リボンで飾られたフィアット・クロマに乗ってきた新郎新婦は
ここでピカピカに磨かれた濃紺のメルセデス300Eに乗り換え
集まった人々に祝福されながら旅立って行った。
そうだ。この季節のヨーロッパは、結婚式のシーズンなのだった。
ジュン・ブライドも、この気候だったら爽やかでいい。

駅を探し当てたボクは、自動販売機でテレフォンカードを買い
公衆電話からアクセスを試みた。
1分ほどで切れるが、ホテルからのように
化け文字が画面を埋めつくすことはない。
業務連絡メールを落とし、返事をアップした。


イタリアのテレフォンカード。
フランスのより薄く日本のより厚い。
左上隅にミシン目が入っており
ここを折り取らないと使えない。
これは、カードの向きを
わかりやすくするためで
イタリアにはこのテの
左上隅がカットされたカードが多い。


何度つないでも、未読を落としているうちに
“NO CARRIER”になるので
溜まりつつある未読を読みたい気持ちをこらえ
途中で切り上げてクルマに乗った。
トリエステ湾を背にして坂道を登り
残り区間わずかのアウトストラーダに入ると
ほんの5kmほどで国境だ。
ま新しい標識に[SLOVENIE]の文字を見つけた。