しかし、どんなに遅くても 
29日の昼までにはシャモニーに帰らなければならない。 
頭のどこかに義務感があると 
どんなに酔っていても 
そうそう長時間寝られるものではない。 
“ヤバい、寝過ごしたかな?”と思って時計を見ると 
まだ午前2時だった。 
とりあえず、走れるところまで走ろうと 
ボクはアールストからブリュッセル方面への高速道路に乗った。 
 
深夜のヨーロッパの高速道路は空いている。 
見える範囲にクルマが一台もいないことも珍しくない。 
だが、睡魔に襲われる確率は日本の高速道路よりは低い。 
マナーの悪い先行車のペースや 
不当に低い制限速度で走るのではなく 
自分が緊張感を保てる速度で走れるからだ。 
走り出して2時間ほどでルクセンブルクに入る。 
帰路も、うまい具合にルクセンブルクでガソリンがなくなった。 
往路に給油してから495km走って51リットルの消費。 
180km/hで巡航を重ねても、のろのろ市街地を走っても 
このクルマの燃費には大きな差がない。 
 
途中で何度かコーヒーブレークと仮眠をとりながら 
ストラスブールまでのオートルートを走る。 
フランスでは、ガソリンスタンドの売店に 
コーヒーの自動販売機がある。 
ストラスブールからドイツに入る頃に赤味を増してきた空からは 
スイスに入ってまぶしい陽が差してきた。 
真夜中よりも、朝日の中を運転するほうが 
睡眠不足の目にはこたえる。 
清潔感を通り越して潔癖感を感じさせる 
スイスの高速のサービスエリアで 
コーヒーとサンドイッチとスープの朝食をとった。 
通勤途中と思しき人たちが何人か 
同じような朝食を食べ、新聞に目を通していたりする。 
 
9時すぎ、ようやくマルティニー〜シャモニー間の 
最後の峠道にさしかかり 
もうすでに昼間の強さとなった太陽に照らされる 
モンブランを眺めながら 
10時ちょうどに、Wさんの待つHotel de l'Arveにたどり着いた。 
 
  
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午前2時にアールストを出 
8時間で850km走ってシャモニーへ。 
さらに、グルノーブルを経て 
ペルピニャンの先のユィまで…。 
この日が、激走の中でも 
最も走行距離の長い1日だった。 
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Wさんはまだ朝食を済ませていなかったので 
となりの“さつき”にいっしょに行って 
二人で朝定食を食べた。 
ボクがいない間、彼は、下山してきたM先生やTさんと 
ゴルフをしていたそうだ。 
観光地・シャモニーでは半日で5,000円もするそうだ。 
 
さて、この日(6月29日)は予定どおりアンドラへ向かう。 
ホテルに戻ってチェックアウトし 
昼前にシャモニーを出発したわれわれは 
イゼール川に沿ってアルベールビル 
グルノーブル経由でローヌ川沿いに出 
地中海岸のモンペリエ、ペルピニャンを通って 
アンドラに入ることにした。 
シャモニーからしばらくWさんに運転をお願いし 
ボクは横で休ませてもらうことにしたのだが 
このあたりは、今が1年で一番美しい時期だと思うと 
寝てしまうのは惜しい気がした。 
 
グルノーブルをすぎたあたりだっただろうか 
100km少々走ったところで運転を交代した。 
二日酔いのせいか、ちょっと頭が痛いが大丈夫。 
新しく開通したオートルートは 
一面のブドウ畑の中を進み、次第に高度を下げながら 
パリからリヨンを経てマルセイユに通じる 
フランスの最重要幹線[A7]に合流する。 
真昼だというのに、窓から流れ込む空気は冷たい。 
道端ではラベンダーの花が、紫色のじゅうたんを広げている。 
 
マルセイユに向かうオートルート 
[A7-E15]の途中で給油と昼食にした。 
ここのガソリンスタンドは値段が高く、5.42フラン/リットルだ。 
シャモニーでは5.19フランだったから、相当な開きがある。 
“しまった、道路脇の価格標識をよく見とけば良かったな” 
…と思ったが 
いつもガス欠ぎりぎりまで走ってから満タンにするので 
次のガソリンスタンドまで 
無給油で走れるかどうかわからないし 
腹も減ったのでここで給油した。 
 
昼食は、ほうれん草とチーズがたっぷり入ったキッシュと 
ナッツの入ったソースがかかった 
フライドチキン+グリーンピース 
それに0.5リットル瓶入りの天然炭酸水とコーヒーだ。 
Wさんも似たようなものを頼んで 
いつもポケットに忍ばせている 
小さなパック入りの醤油をかけて食べていた。 
ボクももらったことがあるが 
どうしようもない“無味”な料理に出くわしたときなど 
あれはなかなか重宝するものらしい。 
 
遅い昼食を済ませたわれわれは 
[A7-E15]を、地中海岸めざして南下を続けた。 
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