マルセイユから西にスペイン国境まで 
地中海が弧を描いてフランスの大地に入り込んだ 
Lion湾と呼ばれる部分は 
マルセイユから東の風光明媚な海岸とは対照的に 
荒涼とした風景が続く不毛の地だ。 
同じ地中海性気候なのに、こちらはより乾燥が激しく 
土壌を潤すアルプスの雪溶け水にも恵まれないからだろう。 
オートルートと海岸線の間には 
白っぽい瓦礫を敷き詰めたような平地が広がり 
ところどころに湿地や潟湖が見える。 
これらはたぶん塩水で、普通の植物の生育には向かないのだろう。 
 
この区間を通るのは 
バルセロナからニースに向かった6月18日以来だ。 
荒れた景色を見ながら 
延々と続く起伏と大きなカーブをいくつか抜けると 
前方に、昨日アールストで見送ったチームのコンボイを発見した。 
チームカラーに塗られ 
ロゴを大きく配した2台のトラックがキャラバンを牽き 
その後方にスカイブルーのプジョー・205 が従っている。 
 
われわれはしばらく後についてようすをうかがう。 
登り坂では80km/hくらいに速度が落ち 
下り坂でも120km/hを超えることはない。 
メーカー系の大チームだと 
V型12気筒に水冷ターボを備えたトレーラーを 
専属のドライバーが運転し 
高性能乗用車顔負けのスピードで移動するが 
プライベートチームの移動手段とその速度は 
ボクが転戦していた9年前とあまり変わっていない。 
 
道が空くのを待って加速し、チームのコンボイと並走する。 
Wさんが窓から身を乗り出して手を振ると 
やっとわれわれに気がついた彼らは 
中指を突き立てたりハンドルをこっちに切ったり 
過激な歓迎をしてくれるので 
こっちも負けず、あの手この手で応戦する。 
 
そんなことをしているうちに 
アンドラへの入り口・ペルピニャンに近づいた。 
“あれ?”っという顔の彼らに手を振って別れを告げ 
われわれはペルピニャンでオートルートを降りた。 
 
  
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グルノーブルからは 
新しく開通した(93年当時) 
オートルート[A49]で 
ヴァランスへ向かい 
ヴァランスから先は 
フランスの南北間の 
重要ルート[A7]を南下。 
オランジュから[A9]に入り 
ペルピニャンへ。 
シャモニーからは 
約700kmの道のり。 
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そろそろ晩メシの時間だ。 
「どこか、おいしいとこありませんかねぇ?」とWさん。 
2年前に一度このルートでアンドラ入りしたボクは 
“そんなモン、あるわきゃねーよ”と思いつつ 
「そうですねぇ、アンドラまでの小さな町で探しましょう」と 
テキトーなことを言って道を急ぐ。 
 
フランス本土の南端に位置するこのあたりまで来ると 
さすがに道は狭く、舗装も悪く 
畑地の中に点在する農家も他より貧しく感じる。 
街並みにも同じことが言え、5〜6kmごとに通過する街はどこも 
ひとけのない古い商店や民家が狭い街道に面して密集している。 
走っているクルマも古く 
老いぼれたプラタナス並木の向こうから 
よれよれのシトロエン2CV(ローマの休日で有名)や 
ルノー・キャトル(4)、錆だらけのシトロエンDSなどが 
煙を吐きながら、けたたましい音とともにやってくる。 
 
“こんなところで「おいしいとこ」を探すのは無理”と 
ほとんどあきらめていたわれわれはしかし、道端にあった 
[Auberge d'Eus - Restaurant-Bar-Hotel] 
という看板を見逃さなかった。 
 
  
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アンドラに向かう道に 
オーベルジュの看板があった。 
当時でさえ、店の前の 
[N116]はすいていたが 
並行してバイパスができた今 
通行量はさらに減った。 
ただ、オーベルジュブームのため 
客は増えているようで 
ハイシーズンの夕食には 
予約が必要。 
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「あれは、ひょっとすると…」とボクが言うと 
「おいしいとこでしょうか?」とWさん。 
そこから先の道を急ぐと、街外れの何もない畑地の真ん中に 
白壁に茶色の屋根がかぶさり 
窓にえんじ色のテントを張り出した建物があった。 
 
そばまで行くと 
さきほどと同じような看板に[P→]のマークがあったので 
矢印に従って建物の裏側に回り 
ぶどう畑の中の駐車場にクルマを停めた。 
ちょうど7〜8人連れの客が出てきたところだった。 
言葉からするとスペイン人らしい。 
いや、ひょっとするとカタラン語を話すフランス人かもしれない。 
 
上機嫌の彼らは 
われわれを見てしきりと親指を上に向けて何か叫んでいる。 
元々聞き慣れない言葉を酔っぱらいが叫んでいるから理解できない。 
でも、サムアップなのだから 
きっと「ここの料理はウメエぞ!」と言いたいに違いない。 
「おーけい、ぐらーしゃす…。ぼんぼやーじ」と 
いい加減な日仏西ごちゃまぜの言葉であいさつすると 
われわれは小走りにレストランの入り口を目指した。 
久しぶりの美味しそうなレストランの発見に 
ボクもWさんも何だかワクワクしてきた。 
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