63 ベルギーの田舎のペンション

ルクセンブルク大公国の首都・ルクセンブルクは
南北80km、東西50kmほどの大きさしかない
同国の南端部に位置している。
(国の面積は神奈川県よりやや大きい程度)
メッツからオートルートで入り、ブリュッセル方面に進むと
わずか30kmほどで通りすぎてしまう小さな国だ。

フランス/ルクセンブルク国境も
ルクセンブルク/ベルギー国境も
それらしき税関の建物と
気を付けているとわかる標識はあるが
ほとんどのクルマは徐行もせずに通過していく。

ベルギーに入ってしばらく走ると景色が変わる。
ルクセンブルクに多かった牧草地がなくなり
森の中を進むようになる
地形はけっこう複雑で
オートルートは地面の起伏に沿って
日本では考えられないような
急なアップダウンを繰り返す。


ルクセンブルクを越えると
すぐにベルギーに入る。
ベルギーの高速[A4]を
ブリュッセル方面に約100km行くと
ウェリンの街にさしかかる。
あたりはなだらかな高原だが
谷はかなり深いため
カーブが少ないわりに
急で長いアップダウンは多い。
ウェリンからは
ベルギー最古の城跡を残す
ブイヨンも近い。


急な坂道は、長いところでは数kmに達する。
道の脇には、速度超過に注意するとともに
牽引しているキャラバンが外れて
暴走しないように注意を促す標識がある。

ルクセンブルクとブリュッセルの
ちょうど中間あたりにWellinの出口がある。
そこを出てちょっと西に行ったところに
Gedinneという村がある。
毎年8月に、レース好きの村長が
村の公道を閉鎖してレースを開催しているため
84年にはメカニックとして参戦し
91年には家族連れで観戦に来た。

小さな村の公道レースとはいえ
格式はインターナショナルだから
外国人選手やGPライダーも出場できる。
84年には福田照男がGPの合間を縫って参戦し
村長夫人の手縫いの日の丸をメインポールに揚げたのだった。


'84年、GP参戦の合間を縫って
ゲディーンのレースに
エントリーした福田照男は
エトランジュ250クラスと
250レーサークラスで優勝。

地元の少年たちも
GPライダーに負けじと
愛車を駆って参戦する。
レース界を取り巻く懐の深さでは
ヨーロッパにかなうところはない。


それ以来、近くを通る機会をみつけては
何度かゲディーンに来ている。
レースのときはスタート&フィニッシュラインとなる
ベルギー国鉄のローカル線のゲディーン駅前に
ボクがヨーロッパで一番気に入っているペンションがあるからだ。
90年の夏に寄ったとき「娘は大きくなったかい?」と聞かれ
「そうだな…、来年は連れて来れるんじゃないかな」と答えたのが
91年夏の家族連れヨーロッパ旅行のきっかけだった。


'91年に訪ねたときも
当然ながら公道レースだったが
駅前を通らないコースに
変更されていた。
この年は日本の堀良成が参戦し
250クラスで優勝した。

16歳以下、50cc以下の
地元の少年たちのレースも健在。
両親、兄弟、友人らが
ピットクルーをするなんてのは
ここでは当たり前。


昔からの街道筋のペンションらしく
“屋根裏に泊まることもできるレストラン”
…って感じで、本業はレストラン。
シャンピニョンのスープと子牛のステーキと
デザートのアイスクリームが格別で(量もスゴい!)
朝食の焼き立てのパンも、他では食べたことがない美味しさ!

…というような話を
ウチに遊びに来たM嬢にしたことがあって
「じゃ、今度連れてってください」
…ってことになったままだったのが
ドイツGPで再会してデートの約束に変わったのである。


ベルギー国鉄の支線の
Gedinne駅前に
ペンションJacobyはある。
(右側の白い建物が駅舎)
1日数本しか列車は通らないが
ナショナルツーリストオフィス推薦の
レストランだけあって
夕食時には
クルマでやってくる客で賑わう。

他の田舎のペンションと同じく
レストランが本業で
宿屋は副業に近い。
1人1泊2食付きで約8千円だったが
約半分が夕食代。
美味しさとボリュームを考えると
それでも非常に安い。
オススメは子牛のステーキと
シャンピニョンスープ。


シャンピニョンスープの味を思い出したボクは
“帰りに自分一人で寄ってもいいな”と
そのときはまだ、そんなのんきなことを考えながら
ブリュッセルへの道を急いでいた。