XJ900の爽快チューン
2012年1月11〜20日 - WSインターバル・今井さんの点検を経て、DLCを落とそうと決断   
     
今井さんから送られてきた動画のキャプチャー。リザーバータンクにガスを注入するとオイルに圧力が伝わり、ロッドが出てくる。
ガスの注入を止め、そのときの圧力を保ったままロッドを押し込むと、フリーピストンが上昇し、タンク内のガス圧は高まる。
ロッドから手を離せば、本来、ロッドは左の写真の位置まで戻るはずだが、ガス圧が3〜4kgf/cm^2のときは途中で止まる。
 組み立てが終わった2本のリアシ
ョックをWSインターバルの今井さんのところに送ったのは、6日の最後に書いたとおり。自分で持って行くのではなく送ると決めたのだから、近くでなくてもかまわない。
 今井さんにしたのは、去年の夏、彼がウチに遊びに来たときに、いろんな話をした中で、オーリンズのリアショックのオーバーホールも自分(WSインターバル)でやっていると言っていたのを思い出したからだ。

 今回のオーバーホールでは、組み立てにかかったあたりから何度か電話で相談をしていて、フリーピストンの初期位置をどうするかという悩みを解消してくれたのが彼だった。
 何度もオーバーホールしているお客さんの個体では「そのつどフリーピストンの位置を変え、同じところにアタリが集中しないようにしている」との返事を聞き、安心して10mm浅い位置にセットしたのは、6日のダイアリーに書いたとおりである。

 で、今井さんにお願いしたのは、窒素ガスの充填と圧力調整。いったん規定圧まで窒素を入れ、抜いてから再度規定圧まで入れ、また抜いてからもう一度規定圧まで入れるのが今井流らしく、1回目の充填で窒素ガス対空気の割合が10:1になったとすると、 2回目には100:1になり、3回目には1000:1になる。しかも、もともと空気の成分の78%が窒素だから、 3回入れれば99.99%近くが窒素になるはずである。ボンベの窒
停止したロッドを引っ張り上げるのに、どれくらいの入力が要るかを動画で見せるため、0.75mmのシックネスゲージを用意。
0.75mmのシックネスゲージの曲がり具合と今井さんの手の角度から、ロッドを動かすのに必要な入力の大きさを想像。
停止する位置は毎回同じで、抵抗が大きい範囲は狭く、そこを通過すれば再びガス圧によってロッドは上昇するとのこと。
素だって 100%ということはあり得ないから、3回というのは(コストを考慮すると)いいセンだと思う。
 ところが、それだけで終わらないのが今井さんの今井さんらしいところ(笑)。いきなり規定の12kgf/cm^2まで加圧はせず、 1kgf/cm^2ずつ圧力を高めつつ、そのつど、全屈状態のロッドがガス圧によって戻ってくる“戻り具合”を確認したらしい。
 その結果、ガス圧が3〜4kgf/cm^2のとき、いったん動きはじめたロッ

ドが途中で止まってしまうことがわかった。 5kgf/cm^2以上まで高めてやると、途中停止せず、伸び切りまでスムーズに動いているとのこと。
 3〜4kgf/cm^2のときに途中停止した状態で、そこからの脱出にどれくらいの力が必要か(どれくらいの抵抗があるか)を、何とかして私に伝えようと、彼が送ってくれた動画のキャプチャーが、上に並んだ6点の写真である。「0.75mmのシックネスゲージの曲がり具合を見れば、どれ

くらいの力がかかっているか、わかりますよね…」というわけだ。
 規定のガス圧にすれば途中停止することなくスムーズに動き、しかもそれは、荷重もスプリングによる反発力もかかっていない状態での話だから、無視して組み立てたところで問題が生じるとは思えない。
 だが、今井さんも私も“知ってしまった問題点を、知らなかったことにできない”性格である(笑)。似た者同士が集まると進行が滞る…の典
内径は、上端(写真では下)から20mmまでがφ36.02〜36.04、20mmから下端までがφ36.04〜36.07という優秀な数値。
ロッドの曲がり測定の結果、数値は教えてくれなかったが、今井さんから「2本とも曲がってませんでした」との報告を受けた。
再分解後、ダンパーオイルを注入せずに(潤滑のために塗ってはいる)作動確認すると、やはりスティックが激しいとのこと。
型的な例というべきか(笑)。
 とにかく、窒素ガスの充填と圧力調整はいったん中止し、途中停止の原因追求〜対策をすることにした。
 原因追求の第一歩として、今井さんは、シリンダーゲージを用いてリザーバータンクとダンパーシリンダ
ーの内径を、ダイアルゲージを用いてダンパーロッドの振れを、それぞれ測定した。どの数値も非常に優秀で、途中停止の原因になるような異常は見当たらないとのこと。

 ところが、目視による点検で、ダストシールのリップ裏面に荒れが見つかった。拡大して見ると、それは“荒れ”などという生易しいものではなく“欠け”や“剥がれ”あるいは“むしれ”と形容するのがふさわしい、かなり悲惨な状態である。
 送られてきたダストシールの写真を見た私は、こいつをロッドに通すときに段差の角でリップに傷をつけたのが原因だろうと思った。ところが、今井さんの話では、挿入時に失

敗した場合、リップが内〜外方向に切れることはあっても、こういうふうになることはないそうだ。
 彼の推測によると、これはスティ
ックによるもので、動きはじめや折り返し時にロッド表面にリップが貼りつき、それを無理やり動かそうとしたときに、貼りついた部分が“持
って行かれる”ように剥がれたのではないか…とのことである。
 それには、心当たりがたくさんある(笑)。いろんなグリスやオイルを
組織が剥がれ落ち、リップの裏側が凹凸になったダストシール。挿入時の傷によるものではなく、貼りつきが原因だろうとのこと。
フリーピストンの摺動範囲のみ、錫の色が落ちたリザーバータンク内壁。この“ムラ”がピストンの傾きの原因かもしれない。
オイルシールには損傷なし。こいつのためにも、DLCをやめ、推定10万kmの走行実績のあるクロームメッキに戻すことを決意。
塗っては摺動させるテストを、さんざんやったからだ。だが、いくらしつこくテストしたからといって、その数はせいぜい数万往復どまりで、そんなもの、実車に装着して走りだせば、ものの10分ほどで達してしまう数であろうと想像できる。
 ここで再びダストシールを新品に交換(当然)し、その後は最もステ
ィックしにくいオイルとグリスの組み合わせで使うとしても、耐久性に大きな疑念を抱え込んでしまった。

 数日間悩んだ末、私が出した結論は“DLCを落とす”である。 アテはあった。スティックしにくいオイルやグリスを探していたときに、酸素プラズマ(酸素雰囲気でプラズマを照射)処理によって、 DLC膜の濡れ性が改善するという記述を見つけ、
その会社に電話で問い合わせたからだ。そのときは濡れ性の改善がテーマだったが、同じ処理を長時間すれば、 DLC膜を落とすこともできるに違いない。再び電話をした私に、ニ

ッシンの横浜営業所のNさんは「じ
ゃあ、やってみましょう」と、快く引き受けてくださった。
 そんなわけで、DLC処理した2本のロッドは、ニッシンの横浜営業所に送ってもらい、そこから宝塚の本社に転送され、酸素プラズマ処理を受けることになった。ロッドが戻ってくるまでの間に、今井さんには、ダストシールの交換とリザーバータンクの(錫ショット層を平す程度の)ホーニングをお願いした。


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