XJ900の爽快チューン
2012年11月26〜28日 - 遠征前にパッド交換。キャリパーピストン掃除は22000kmぶり
     
 ロードライダー誌のイベント“飛び出すロードライダー!”の日が迫
ってきた。同誌に“整備のドツボ”
という連載記事を書いている私も出演することになり、当然、バイクで行くことに…。重箱の隅を突くような整備記事の筆者としては、外から見えるところだけでも(笑)、ちゃんと整備をしたマシンで出かけたい。
 外から見えるところで、このところ気になっていたのは前後のブレーキパッドである。1週間前のダンロ
ップ・ツーリングステーション
が終わった段階で、前後合わせて6枚のブレーキパッドの摩材残り厚さは、

どれも1mm以下になっていた。
 そこでまず、25日の北山会の前日にリアのみ新品に交換し、帰ってきてからフロントも新品に交換することにした。リアを先にしたのに深い理由はなく、ただ、リアはシングルディスクなので、フロントの半分程度の時間で交換できるという“メンドクサいことを先送りにしたい気持ち”が働いたにすぎない(笑)。
 ここまで使用していたフロントのブレーキパッドは、10月21日のダンロップ・ツーリングステーション@瀬の本高原に出発する直前、10月19日にローテーションした物だ。

 2009年7月12日に4枚セットで新品に交換したあと、 26712km走行したところで、内側(右キャリパーの左側と左キャリパーの右側)の2枚が残り1mm以下になっているのに気づき、捨てずに残していた使用済みパ
ッドの中からマシなのを2枚選んで入れ替えたというのが、このときのローテーションの真相である(笑)。
 これにより、とりあえず危機的状況を脱したとはいえ、その後の使用で、今度は4枚揃ってギリギリまで減ったので、筑波行きを機会に4枚とも新品(Spec03ではないメタリカ
の通常摩材)にすることにした。
前回の交換後、26000km超を使用し、久しぶりに新品に交換するメタリカの7524。効きとタッチに加え、耐久性も抜群だ。キャリパー整備の第一歩は、水洗い。写ってないが、ブルーポイントの筆型ブラシで“ツンツン”と突くようにして汚れを落とす。
 前回のパッド交換時期を調べたとき、ついでにキャリパーの整備記録をチェックしたところ、こちらも長くノーメンテで、アルミピストンに交換して以来約2年、22065km経過していることがわかった。これほど長期間、オーバーホールも掃除&給脂もせず使い続けたのは初めてだ。
 まずはフロントの右側から、古いパッドを抜きとり、キャリパーをフロントフォークから外してピストンの汚れ具合を観察。2010年にピストンを交換したとき、潤滑剤の量を思い切って減らした(シールの4面を軽く湿らす程度にシリコングリスを

塗り、ピストンには何も塗らずに組みつけた)のと、このピストンに最初から施された表面処理(おそらく
カシマコート)の相乗効果か、ピストン側面の汚れは非常に少ない。
 続いて、バケツに入れた湯に浸けながら、台所用洗剤(ジョイ)をつけたブラシでキャリパー全体の汚れを落とした後、左手で片側の2個のピストンのせり出し防止&反対側のピストンの出すぎ防止をしつつ、右手でブレーキレバーをスコスコ動かしてピストンをせり出させる。
 使用したアルミピストンを、こうやって観察するのは初めてであり、

鉄ピストンとの、あまりの違いに驚いた。鉄ピストンだと、カジリとまではいかないにしても、キャリパーボディー(シリンダー壁面)と擦れた跡や表面処理層の色ムラ(部分的な摩耗の進行)があって当たり前なのに、アルミピストンには、そうした異常はまったく見当たらない。
 やはりこれは、高硬度で耐摩耗性良好、かつ、無給油で摺動部に使用できる潤滑性をあわせ持つなど、カシマコートの持つ優れた特徴のおかげだろう。で、今回は、汚れた部分のみ掃除すれば充分と判断し、パーツクリーナーを染み込ませた綿棒で
水洗いが終わったところ。ピストン側面を掃除する前だが、潤滑剤を塗らずに組み立てたためか、汚れの付着は少ない。手前側の2個のピストンをキャリパー本体もろとも握りしめ、ブレーキレバーを何度か握って向こう側のピストンをせり出させる。パーツクリーナーを染み込ませた綿棒(一部布の端切れを使用)を用いて汚れを落として点検。気になる傷や摩耗は皆無。
汚れを落としたあと、ピストン側面にシリコンスプレーを軽く吹いて押し戻すだけで手入れを終えた。
 このあと、出来の悪いパッドの場合は、裏面の平滑化や裏板側面の面出しなど、メンドクサい作業が必要だが、よくあるシャーリング(打ち抜き)ではなくレーザーカットで裏板を作っているメタリカは、裏面も裏板側面も、もともと面が出ているから即用可能。裏板側面の縁とパッドピン穴の縁に、気休め的に軽く糸面取りをし、摩材の上下の縁を軽く丸めただけで準備完了とした。
 摩材の左右の縁には、面取りはし

ない。摩材の左右の縁、とくにリーディング側(巻き込み側)に位置する縁は、ディスク表面に付着した異物を掻き落とすワイパーとしても機能しており、ここに面取りをしたり丸めたりすると掻き落とし能力が低下し、異物が噛み込みやすくなる。
 フロントフォークへのキャリパーの取りつけは、いつも同じ位置にくる(ディスクに対するパッドの当たり位置を、できるだけ再現する)ように、自分なりの(このマシンに合わせた)手順を決めている。
 その手順とは、キャリパーをフロントフォーク・アウターチューブに

取りつけるときの、2本のボルトの締め方に関することがらだ。まず、ネジ部と座面を清掃・潤滑したボルトを、特別なことは何もせず、普通に、座面が接触するまで締め込む。続いて、2本のボルトを、それぞれ1/4回転ほど緩める。 そうすると、アウターチューブのボルト穴(内径10.5mm程度)とボルトの軸部(外径10.0mm程度)の間の隙間のせいで、ボルトを通したままでも、キャリパ
ーを手で持って前後・上下に“コトコト”と揺することができる。
 この“コトコト”ぶんのズレを、どちらにズラして固定するかによっ
7524の適合機種。外観がよく似たスズキ系(取りつけボルト90mmピッチ)のニッシン製キャリパーも、パッドの寸法は同じ。裏板はレーザーカットで切り出しているので歪みがなく、即用可能。黄金色は、摩材の結合を助ける銅メッキによるもの。セラミック、カーボンなどを含有した焼結金属の緻密な摩材。溶出した摩材成分がディスクをコーティングして真価を発揮。
制動時にキャリパー本体と強く接触しつつ摺動もする側面の縁に、軽く糸面取りを施した向こう側と、未施工の手前側。パッドピン表面と接触・摺動するピン穴の縁にも糸面取り。外側のS字カーブ部に面取りしたのは、見栄え向上が狙い。ここまで使えというわけではないが(笑)、耐摩耗性の高さのおかげで、こんな状態になったときでも、他と比べて安心感は高い。
て、ディスクに対するパッドの位置が微妙に変わる。キャリパーを下げた状態で固定すれば、下の左側の絵のようになるし、上げた状態で固定すれば右側の絵のようになる。
 どちらが望ましいかというと、左側の絵のような位置である。通常、ディスクよりもパッド(摩材)のほうが減りが早いから、左の絵の場合は摩材が均等に摩耗するのに対し、右の絵の場合はディスクに当たっている部分は減るが、当たっていない部分は減らず、段付きが生じる。
 仮に段付きが生じても、ジグソーパズルのように、常に凹部に凸部が

嵌まってくれればいいが、パッドの上下方向の位置を決めているのはパ
ッドピンであり、パッドピンとパッドピン穴の間にもガタがあるから、ときには摩材外周部の“減っていない部分”がディスク周辺部に乗り上げ、効きにくくなることがある。
 XJ900のSTDアウターチューブ+TZ
250のキャリパー+T-MAXのフロントディスクの組み合わせでは、先に書いた“コトコト”の“コ”のところで締めつければ右の絵のようになり
“ト”のところで締めつければ左の絵のようになるから、ここは毎回、
“ト”のところ、つまり、摩材の上

縁よりもディスク端面がわずかにせり出した状態(左上の絵)になるように、キャリパーを片手で前方に押しつけながら、もう一方の手で取りつけボルトを仮締めしている。
 先に書いた“コトコト”の原因である“ボルト穴内壁〜ボルト外周間の隙間”を、どちらに寄せておくかには、もうひとつ、ブレーキをかけたとき、キャリパーがどちら向きに動こうとするのかも影響する。前転するディスクをパッドで挟みつけるわけだから、フロントフォーク後方にマウントされたキャリパーは、制動時、フロントフォークに押しつけ
座面が接触するまで締めた後、コトコト動かせる程度に緩め、片手でキャリパーをフォークに寄せ、もう一方の手で仮締め。ちゃんと仮締めできていれば、本体を支えていなくてもズレることはないから、この状態でトルクレンチを用いて本締めする。ロードライダー誌に連載中の“整備のドツボ”2012年8月号に使ったイラスト。手描きのイラストと文字が新鮮…との声も。
他では得られぬ“締まり感”が気に入ったニッケルグラファイトペースト。締めつけトルクは3.5Nmから3.0Nmに減らしている。座面に塗ったペーストを全周に広げるために、締めつけ前に、座面を軽く接触させたまま、指先でクルクルと回しておく。パッドの踊り防止プレート(騒音&摩耗防止)は、ドライカーボン板で自作。ここのクリップは開口端を前に向けるのが正解。
られる方向の力を受けている。
 だから、仮にボルトが緩んだとすると、最初からフロントフォーク方向にズラして取りつけていた場合はキャリパーの位置がほとんど変わらないのに対し、フロントフォークと反対側にズラして取りつけていた場合はキャリパーが(ボルトまわりの隙間の分だけ)フォーク方向にズレる恐れがある。もちろん、いったん緩んでしまえば、締めつけたボルトが発生する軸力による“摩擦接合”
ではなくなり、緩んだボルトが剪断方向の力を受け止める“剪断接合”
になってしまうから、最初からフロントフォークに寄せておくのは大し

て意味のないことかもしれない。
 しかし“大して意味がない”のと
“どうでもいい”のは別である。正しく締まった(求められる軸力を発生している)状態と完全に緩んだ状態の中間を考えてみれば、そこには
“制動力がかかった瞬間に摩擦接合から剪断接合に変わる”状態があるはずで、そのときに、反対側に寄っていたキャリパーがフォーク側にズレることは充分に考えうるし、フォ
ーク側に寄っていた場合よりもズレが生じやすいとも推測できる。加えて、ズレるときの動きがボルトの緩みを助長することや、ズレて当たったときにはズレずに当たったままで

いるときよりもはるかに大きな剪断力がかかることも想像できる。
 要は、整備において重要なのは、
“手順を知っていることよりも想像力を働かせること”なのだ。手順はマニュアルや解説書の類を見ればわかる。正しく締めたボルトは緩まない…とか、もしも緩んだら締めなおせばいい…などというのは、一見、真っ当な考えのようでいて、実は、容易に想定しうるトラブルの可能性から目を背けているとも言える。
 …と、まあ、いつもと同じく、そんなことやあんなことを考えながら(笑)、フロントキャリパーの整備とパッド交換は無事に終了した。
表面処理層の剥がれが進行したリアキャリパーのピストン側面。あと何万kmか走ってアルミピストンに換装を検討。リアも残り1mm以下まで使ったが、こちらは“よく減る”摩材なので、リアをよく使う人に試乗してもらうときは心配だった(笑)。1レースもてばいい…と割り切って作られたスペシャルパッドなので、新品でもこの薄さ。もちろん、狙いは軽量化だった。
 続いてリア。先日パッド交換をしたばかりのリアキャリパーを、もう一度チェックしようと思ったのは、こちらはTZ250用キャリパーのSTDピストン(鉄系素材にカニゼンメッキをしたあとベーキング)のままであり、フロントのアルミ+カシマコートピストンと比べて、どれほど違うかを見たかったからである。
 フロントと同じ方法で、パッドを抜き出した状態でピストンをせり出させるときすでに、フロントと比べると動きが渋いことが判明。露出していた部分の汚れがリアのほうが多いのは、ひょっとするとフロントとリアの使用環境の差かもしれないが

キャリパーボディー内に入っていた(シールよりも内側にあった)部分の側面に、キャリパー本体(アルミ鋳造+アルマイト)との接触によるものと思しき表面処理層の摩耗(上の写真では右の大径ピストンの奥寄り側面に顕著)が見つかった。
 初めてこれを見れば、急いでピストン交換が必要…と思ったかもしれないが、フロントが鉄ピストンだったころは、こんな状態でも掃除と給脂だけで長期間使っていたから、今回のリアも、とりあえず掃除と給脂だけで済ませることにした。
 シリコンスプレーを軽く吹いただけのフロントとは異なり、リアには

Super Lubeの“高温・極圧グリス
(オーリンズ・リアショックのフリ
ーピストン組みつけ時に使用)を塗
ってからピストンを押し戻した。
 このところずっとリアに使っているのは、大昔のブレンボ用(ブレンボ純正ではない)パッドである。タッチ/効き/耐久性ともメタリカには及ばないが、裏板がアルミ製で軽量なのと、焼結パッドよりも断熱効果が高い(ピストンに熱を伝えにくい)ので、走行風による冷却がフロントほど期待できないリアには、こっちのほうが適している(もともとあまりリアブレーキを使わないのも考慮して)と考えてのことだ。
MOSキャリパー用純正パッド(左)と、メタリカの7520。7520のほうが、摩材上縁が、わずかに(1mm以下)低いように見える。MOSキャリパー用純正パッド(左)のほうは、下側の角に大きな斜めカットがあるが、下縁の高さはほとんど変わらない。
 フロントの右側を月曜日、左側を火曜日、リアを水曜日に…と、3日がかりで少しずつキャリパーの整備とパッド交換をしている途中で、火曜が休みの“なかじぃ”さんがパッドを取りにやってきた。私の7524といっしょに注文〜入荷した、メタリカの7520(通常摩材)である。
 フロントを MOSキャリパーに換装
した彼のTRX850は、 FZ1用セミラジアルマスターシリンダーとの組み合わせにより、効力や握り込んだときのフィーリングは改善したものの、握りはじめの感触は、 以前のSTDキ
ャリパー+メタリカのほうが彼の好みに合っていたとのことで、本来は

ブレンボ(4ピストン)用の7520を使ってみることにしたのである。
 メタリカの適合表によると、 MOSキャリパー用の品番は7529である。だが、7529には、Spec03摩材の製品しかなく、あの、効きは驚くほど強烈だが“ギシギシ”した感触のあるSpec03を“味にウルサい”なかじぃさんに薦めるわけにはいかない。
 で、ジャムセッションの橘和社長に電話をし、なんとかならんのか〜と聞いてみたところ、摩材の当たり位置が微妙に変わるが、7520が使える…との回答。 isaスプロケットのHPにある“ブレーキパッド一覧”で調べたところ、 MOS用パッドの幅が

69.2mmでブレンボ用は69.5mm。幅が0.3mm広いということは、 キャリパ
ーボディーとの隙間が 0.3mm狭くなるということで、熱膨張によるステ
ィックが心配である。この点を橘和クンに確認したところ、7520を装着したYZF-R1でSUGOのレースを走って問題なかったので、街乗りならまったく問題ないでしょう…とのこと。それでも心配なら、 裏板の幅をSTDに合わせて削るというテもある。
 摩材の当たり位置の微妙な違いについては、上の写真のとおり。2枚の写真とも、左がMOS用のSTD、右が7520であり、これに関しては“ほとんど変わらない”と言えそうだ。


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