XJ900の爽快チューン
2012年2月19〜26日 - スパイクノイズふうの不快振動を制圧し、目標に近づく
     
 リアショックの外注作業(酸素プラズマによる DLCコーティングの除去)を待っている間に始めたフロントフォークのオーバーホールとセッティングは、2月4日のインナーチュ
ーブの曲がり修正と2月5日の組み立てを経て、 2月11〜12日に(従来とはカートリッジエミュレーターの使い方を変えた)スタートセッティングを施し、その後は“施工(予測)と試走(結果)の間に、以前には感じられなかった強い関連性が感じられるようになった…”と書いたように、好循環のまま改善を重ね、今日(26日)の変更とテストをもって、いったん終了することにした。
 いったん終了…と書いておきながら、明日には再開するかもしれないが(笑)、今日までのは“納得できるベースセッティング”を出すための作業であり、今後するかもしれないのは“さらに満足度の高いファインセッティング”を追求する作業になるはずだから“今日まで”と“明日から”では、セッティングに向かう緊張感も方法も違ってくるはず。

 そう。つまり、今日までのセッテ
ィングは、趣味のバイクいじりでありながら、常に“早くせよ!”あるいは“ちゃんとせよ!”と、自分で自分にハッパをかけ、緊張感(または切迫感)を高く保ったままの作業だったのである。そうなったのは、リアショックの完成に間に合わせたいのと、久しぶりに快調なマシンでシーズンインを迎えたいのと、いったいいつまでこのフロントフォークに悩まされとるんや未熟者めが…といったあたりが入り交じった、フクザツな心境のせいである(笑)。
 で、今回のセッティングの決め手は、11から12日に書いた“カートリ
ッジエミュレーターを低中速作動域に限定して使用”したのに加え、その後、フォークオイルの粘度を一気に3ランクも下げたことにあった。
 摂氏40度のときの動粘度を表す数値(cSt =センチストークス)をそのまま番手にしているアッシュのフ
ォークオイル
を、それまでの58番から30番に変更したのである。30番などという軟らかいフォークオイルを

使うのは、もちろん初めてである。
 カートリッジエミュレーターを使う前の仕様で40番を入れていて、和歌山利宏さんに動きすぎを指摘された(BS誌 2006年7月号)後、58番を常用するようになり、カートリッジエミュレーターを使いはじめた初期に再び40番をテストしたが、その後やはり58番に落ちついていたにもかかわらず、ここでいきなり30番にしたのには深いわけがある(笑)。
 30番を試したのは、2009年の秋ごろからずっと気になっていた“突き上げ感”を何とかしたいと考えてのこと。ここで言う“突き上げ感”とは、50km/h近辺の速度で5cm程度の段差を乗り越えるとき、フロントタイヤが段差に当たった瞬間に感じる
“巨大なゴムハンマーでステアリングヘッドを下から叩かれたような”
不快な挙動(振動)のことである。
 もっと速度が低かったり高かったりすると、この現象は出ない。もっと低速の場合はフロントフォークの作動速度が低いからで、もっと高速の場合はタイヤがうまく仕事をして
30番のオイルに合わせ、伸び側オリフィスも開け直して小径化。オイルロックピースのテーパー率は少々大きめにした。
穴だらけのポペットバルブ。φ2.2×1個で30番を使い始め、その後φ2.0×1個に絞った。冬場はφ2.1あたりがベストか。
ばねレートを計測。この数値×たわみ量=プリロード荷重で、プリロードが同じだとレートが異なっても開弁圧は変わらない。
くれるからではないかと思う。
 この“突き上げ感”を何とかしようと、これまでにも、フォークスプリングを替えたり、カートリッジエミュレーターのセッティングを変えたりしてみた。が、他の路面状況での挙動や操安性(ライダーのアクシ
ョンに対する反応)は変化しても、突き上げ感には大差がなかった。
 11日から12日にかけてのセッティングで、最後に85点と評価したときも、15点の減点の大部分が、依然として残っていた突き上げ感だった。これを何とかしない限り、二度とこのマシンでは気持ちよく走れないのではないか…というほど、気になる(気に入らない)症状だったのだ。
 85点に達した12日から次に変更を試みた19日までの間、作業は何もせず、あれこれと考えた。そして、次のような仮説にたどり着いた。
 流体の動くことができる(形を変えることができる)速度には限界があり、それを超える速度の外部入力を受けるとリジッドになる。
 この仮説が正しいかどうか、そんなことは知らないし確かめる気もな

い(笑)。ただ、精密組みをはじめとする作動性向上によってスティックしにくくなったのに伴い、以前はフリクションダンパー的に抑え込んでいたスパイクノイズふうの高周波振動がダンパーオイルに伝わるようになり、リジッドになった瞬間にフォ
ークが縮まず、ステアリングヘッドを下から叩かれたような状態になっているような気がする。
 風呂に浸かって、手を湯に浸けるとき、ゆっくり動かせばほとんど抵抗感がないのに対し、勢いよく湯面に手を叩きつけると、まるで固形物を叩いたときのように痛い。フォーク内部で、これと同じようなことが起きていて不思議ではない。
 このように考えて、とりあえずフ
ォークオイルの粘度を下げてみることにした。うまい具合に、リアショ
ックに入れるつもりで買った30番が余っていた(リアショックには20番を入れた)ので、それを試すことにして、とりあえず2個のオリフィスのうち1個をふさいだだけで30番のスタートセッティングとした。
 最初の試乗メモには“長く続いた

50km/h近辺で段差乗り越え時の突き上げが解消の方向!”や“すべての角が丸まった感じ!”と書いた。あとは少しずつ、自分にとって初体験の30番に合わせてセッティングを詰めていくだけ。そしてこの作業は、新しく試した“カートリッジエミュレーターを低中速作動域に限定して使用”のおかげで、極めて容易かつスムーズに進行した。
 スロットルのオン/オフに伴うピ
ッチングのような低速作動域のダンピングはカートリッジエミュレータ
ーのポペットバルブに開いたオリフ
ィスの径で決め、ブレーキング初期のノーズダイブとその後の効き具合といった中低速作動域はポペットバルブの開弁圧を決めるスプリングのプリロード荷重で決め、操安性に大きな影響を及ぼす中速作動域のダンピングはバルブスプリングのレートで決める…と、以前よりもはるかに
“予測”と“結果”の関係がシンクロしており、30番のオイルに変えてからは、わずか4セット目にして、早くも“いったん終了”といえる納得のレベルに到達した。


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