2012年2月11〜12日 - カートリッジエミュレーターを低中速作動域に限定して使用 |
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リアショックの DLC膜剥離を待っている間に始めたフロントフォークのオーバーホール。インナーチューブの修正が終わったあと、ただもとどおりに組み立てるのではつまらないので、今までとは異なる方向のセ ッティングを施すことにした。 レーステックのカートリッジエミ ュレーターというヤツは、旧態依然としたダンパーロッド式(筒穴式)フロントフォークに付加することにより、低中速作動領域での圧側ダンピングフォースを大きく、かつ調整可能にしようという製品である。 筒穴式フォークの圧側ダンピングフォースが、なぜ低中速作動領域で足りないのかは、 2009年3月27日のダイアリーの最後のほうに書いた。 筒と穴でできた簡便な構造のダンパーの場合、作動速度の上昇に伴ってダンピングフォースが累進的に高まる。このため、高速作動領域でのオーバーダンピングを避けようとすると、低中速領域で充分なダンピングフォースを得るのは難しい。 で、カートリッジエミュレーターは、フォークシリンダー上端の開口部をふさぐように取りつけ、フォー |
| クが縮むときにフォークシリンダー内を上に向かって流れるオイルがポペットバルブを通過するようにしてダンピングフォースを得ている。 ポペットバルブはコイルスプリングで押さえられており、バルブが開かない程度の油圧しかかからない低速作動領域ではバルブ面に設けられたオリフィスがダンピングフォースを発生する。中高速作動領域に入って油圧が高まると、その圧力によってバルブがリフトし、バルブとバルブシートの間の隙間の大きさに応じたダンピングフォースを発生する。 カートリッジエミュレーターに関する詳細は、 2009年3月29日の“カートリッジエミュレーターの構造と作動”をご覧いただきたい。 筒穴式ダンパーの構造上、得るのが難しい低中速作動時の圧側ダンピングフォースを発生させ、バルブスプリングのレートやプリロードによ って調整をも可能にするカートリッジエミュレーターは、筒穴式フロントフォークの性能を大きく高める救世主と言っても過言ではない。 私のXJ900では、2009年3月23日に装着してから2011年8月1日まで、フ |
| ォークシリンダーの頭部に落とし込める小径のカートリッジエミュレーターを使用しており、 2009年9月29日の“カートリッジエミュレーターのセッティングが完成”で書いたように、 STDの筒穴ダンパーでは得られない、低中速作動領域での充分なダンピングフォースを得ていた。 ところが、フォークスプリングの仕様を変えた(2段バネのピッチの細かい側をカットして1段目のレートを高めた)のと同時に、カートリ ッジエミュレーターを大径の物に変更したころから、以前のような満足感は得られなくなっていた。 最大の原因は、大径カートリッジエミュレーターのセッティングをサボっていたことだ。不調を来したリアショックを何とかしない限り、フロントだけ頑張っても仕方がない…といった感じの、諦めにも似た心境で、足まわりのセッティングに関する興味とヤル気を放棄していた。 それが一転して、再びフロントフ ォークをいじりだしたのは、リアシ ョックのオーバーホールの完成が近づき、セッティングに対する興味とヤル気が戻ってきたからである。 |
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カートリッジエミュレーターを装着したフロントフォークのセッティングを再開するにあたって、以前の初装着から完成までのセッティングメモを読み返したり、油圧式ダンパ ーに関するさまざまな資料に目を通したりした。オーリンズのリアショ ックの分解〜組み立てで得たノウハウも、部分的に役に立った。 これらを総合して、今回は、中断していた大径エミュレーターのセッティングを再開するのではなく、異なった考えに基づいて進めることにした。以前と違うのは“高速作動領域ではカートリッジエミュレーターに頼らず、もとからある圧側オリフ ィスに仕事をさせる”点である。 カートリッジエミュレーターの説明書には、フォークシリンダー(ダンパーロッド)下部にある圧側オリフィスを直径8mm×6個に拡大・増設せよと書かれている。 STDの圧側オリフィスの効力を低くし、高速作動領域でのダンピングフォースもカートリッジエミュレーターのバルブで発生させるための加工である。 今回のセッティングは、まさにこの点に疑いの目を向け、 2009年3月 |
| 30日に圧側オリフィスを直径8mm×6個に拡大・増設した物ではなく、もとの直径5mm×2個のオリフィスを持つフォークシリンダー(ダンパーロ ッド)に戻すことにした。 これにより、高速作動領域での圧側ダンピングフォースは、 STDのフ ォークと同じく、フォークシリンダ ー(ダンパーロッド)下部のオリフ ィスで生じるようになる。 設置場所も目的も異なる“オリフ ィス”という名の穴が2箇所にあるとわかりにくいので、以下、フォークシリンダー下部にある穴は“ポート”と呼んで区別することにする。 もともとXJ900のSTDフォークで不満があったのは、低中速作動領域の圧側ダンピングフォースの小ささであり、高速作動領域での圧側ダンピングフォースには不満がなかったから、そこを復活させたわけである。 これにより、高速作動領域では効かなくてもよくなるカートリッジエミュレーターは、低中速作動領域でのダンピングフォース発生に専念すればよくなる。具体的には“オリフ ィスをどこまで効かせるか”と“ポペットバルブが開きはじめてからの |
| 油圧とバルブ開度の関係”を制御できればよく、前者はバルブスプリングのプリロードで、後者はバルブスプリングのレートで調整できる。 低速作動領域でのダンピングはオリフィスで決め、高速作動領域でのダンピングはポートで決め、その間をうまくつなぐのがカートリッジエミュレーターの役割…と単純化すれば、セッティングが容易になるとともに、低レートのバルブスプリング(中速作動領域でのダンピングフォ ースの立ち上がりが急激すぎない)が使えるから、ダンピング特性グラフの曲線を“いい感じ”の形にすることができるのではないか…。 “いい感じ”とは、極低速ではスロ ットル開閉に伴う姿勢変化がわかりやすく、低速では適度に効いて乗り心地を良好に保ち、中速〜高速ではゆっくり立ち上がって乗り心地のよさと軽快なハンドリングを両立し、高速ではしっかり効いて安定性を損ねない…といった特性で、 2009年9月29日に書いたのと同じ方法でやったとしても、高速作動域への影響を気にせずに低中速作動域のセッティングを詰めていけそうだ。 |
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ここまで決めて、まずやってみたのは、オリフィスの流量を増やすべく、ポペットバルブに開けていた大きなオリフィスを埋め、代わりに直径2mmの穴を4個開けることだった。これと組み合わせるバルブスプリングは、とりあえず中間的なレートを持った青ペイントの物。このスプリングに、とりあえず1回転(約1mm)のプリロードをかけてセットした。 試走の結果は、大して悪くないが良くもなく、どこにでもあるフツーの古いバイク…といった感じだった(笑)。気になった点は、路面の感触が伝わりにくい(タイヤの存在感が希薄な)ことと、切り返し時の安定感不足(粘りを感じさせず、スパッと決まるのはいいが、自分好みじゃない)である。前者はオリフィスを小さくし、後者はバルブスプリングのレートを下げるのがよさそうだ。 で、さっそく、バルブに開けた4個の2mm穴のうち2個をハンダでふさいで極低速作動域でのダンピング強化を狙い、バルブスプリングは、とりあえず最もレートの低いクロームメッキされた線径の細い物に交換。プリロードはゼロにしてみた。 |
| 試走の結果、フロントの接地感が出、切り返し時の軽快感が高まるなど、良い方向に向かいつつあるのを感じるとともに、細かな不満がたくさん出てきた。細かなところに不満を感じるということは、その他のところがある程度のレベルに達したという証拠だから、まだ先が長いとはいえ、歓迎すべきことである。 細かな不満のひとつは、建てつけの悪いマンホールの縁程度の段差を40〜50km/hくらいで通過したときのドタバタ感である。速度を下げるか上げるかすれば解消するから、中速作動領域のダンピングを強めれば解決するのではないかと思われた。 もうひとつの問題は、伸びが速すぎるような気がしたこと。これは、以前、和歌山利宏さんにも指摘されていたことで、コーナー立ち上がりでの前上がりに関しては乗り方(ブレーキのリリースをていねいにするなど)でカバーできるが、乗り心地に与える悪影響もあるのではないかと考え、対策をしたくなった。 そこで、バルブスプリングのプリロードを増やす前に、伸び側オリフ ィスを絞ってみることにした。 |
| 伸び側に手をつけるのは、このマシンでは(フォークオイル粘度に頼 った変更以外)初めてのこと。もとからフォークシリンダー(ダンパーロッド)側面に1個だけ開いている直径1.8mmのオリフィスを ハンダで埋め、 反対側に1.5mmの穴を開けるところからテスト開始である。 3度めの試走の結果、これでは伸び側ダンピングが効きすぎていたので、1.5mmの穴を1.7mmに拡大した。もとの1.8mm穴と比べて0.1mmしか違わないが、もとのようなエッジの崩れた穴ではなく、穴の縁の面取りなしのシャープな仕上げにしたから、数値以上の差はありそうだ。このとき同時に、バルブスプリングのプリロードを0から2回転に増やした。 4度めの試乗では、50点でスタートし、60点あたりまで来ていた満足度が、一気に85点に引き上げられたような気がした。 100点までの道のりは容易でないとしても、施工(予測)と試走(結果)の間に、以前には感じられなかった強い関連性が感じられるようになったから、途中で大きく後退することなく前進を重ねていけるのではないかと思う。 |
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